剣道を知る

剣道を知る その1 剣道の稽古

 剣道の稽古とは、宮本武蔵は「千日の稽古を鍛として、万日の稽古を錬とす」という言葉を残しています。「鍛錬」とはもともと金属を打ち鍛えることから転じて教育・訓練等を積んで心身・技能を鍛えることと言われています。
 一瞬にして勝負が決する剣道ではこのことを「稽古・修練」と呼びさまざまな稽古法が存在します。自己の心身の鍛練を通じて、真の知を体得しようとする実践的な試みを「稽古」と言われております。

剣道を知る その2 稽古の心得

 剣道の稽古の心得とは、剣道の稽古は「師弟同行」が第一の要点であり、生涯を通じて「術を媒介として道の工夫をする」ことと言われています。目的と手段を一体化して進められるところの最大の特徴であり、そのためには、第一に良師に就くことが最も大切なことと言われています。
 一本の剣を双手で操作する身体技法は極めて難しく、その基本を身につけることに多くの時間を要するのも特徴です。「心・技・体」の道理をよく理解しつつ、鍛錬稽古をやりっ放しにしないで「心を込めて繰り返す」ことが求められます。
 「昨日の我に今日は勝つべし」。これは柳生新陰流の教えです。常に稽古に望むに際してこの気持ちを持つことが大切です。「人間は真剣になれば誰とでも互格になれる」という教えも昔から存在します。
 常に「不敗の位」に立ったところから稽古が始まるという点が第二の要点であり、「元気」を喚起し、旺盛な気力を持って稽古に挑むことを心掛けましょう。

剣道を知る その3 稽古の種類

 稽古の種類・稽古法とは、剣道には竹刀の持ち方、足さばきなどのような基本的な技術から、相手との攻防で用いられる打突や防御などの応用的な技術があります。そのための戦う気力や冷静な判断力、瞬時の機会に対して果敢に打突する判断力などを身に付ける必要があります。
 稽古の形態は、相手を介さないで自分一人で行う「ひとり稽古」と、相手を伴って行う「相対稽古」に大別されます。剣道はそもそも相手と対し、攻防を通じて技や心を競うものであり、そこで相手と対する以前にまずは自分自身を見直す必要があります。
 先人達の知恵である身体技術や相手と対したときの心の持ち方を確認しながら一人で進める稽古が「ひとり稽古」といわれています。
 相手との関係の中で変化する間合や機会を的確にとらえて、技術・能力を身に付ける稽古を「相対稽古」といわれております。この稽古は、指導的立場の元立ちの方が果たす役割が大きいです。

剣道を知る その4 剣道の稽古法

・・・剣道の稽古法・・・
 切り返しは、剣道の移動方法である送り足と踏み込み足、また打突方法である正面打ちと左右面打ちを組み合わせた基本を確認する稽古法と言われています。
 打ち込み稽古は、元立ちの示す打突部位(隙)に対して連続的に打ち込んでいく稽古法と言われています。
 掛かり稽古は、掛かり手が元立ちの隙をねらって果敢に打突していく稽古法であり、打ち込み稽古と異なり、元立ちが掛かり手の打突をかわしたり、体当たり等で体勢を崩すなどして安易に打たせないところに特徴があります。気力を旺盛にして相手に挑む、より実践的な稽古法と言われています。
 地稽古は、両者が剣道のさまざまな攻防の技術を用いて有効打突を競う実践的稽古法と言われています。互格稽古は、相手が自分と同じレベルであってもまたは実力者であっても互格の気持ちで対する稽古法と言われています。
 引き立て稽古は、上手な者が下の者の技量に合わせて必要とされる気力や技術を発揮させるような稽古法と言われています。

剣道を知る その5 特別稽古

・・・特別稽古・・・
 立ち切り稽古は、山岡鉄舟の道場の「誓願」と呼ばれています。段階的に進められ、「一日で元立ちとして200回の試合をし最終的には7日間で1400回の試合」をするという荒稽古と言われています。
 暑中稽古は、暑さにより少しの運動量で息があがり、意識が朦朧とし注意力が散漫となります。また、疲れた中では手足を動かそうと思っても体全体がだるくなり、動きが鈍くなります。このような中、苦しさに打ち勝ち、緊張感や集中力を維持する稽古法と言われています。
 寒稽古は、早朝に行われることが多く、布団から抜け出すことに最初の試練があり、道場では寒さのために足がしびれ、体全体の自由も利かない状態になります。動きそのものも体が温まるまではぎこちないため、技を大きく使うことに留意し剣道の基礎、基本となる切り返しや打ち込み稽古を多く行うと言われています。

剣道を知る その6 形稽古

 形稽古とは、ある一定の決められた所作や動作に示した「型」の本意を理解して自らの身体で正確に再現することを目的とする稽古法と言われています。
 千葉周作は、「体づくりと技を学ぶための基本であり、それを基にして試合で臨機応変の動きを十分に練った後、再び型に立ち返り、無念必勝の妙所を会得せよ」と述べています。
 その後、1886年に警視流木太刀形、1906年大日本武徳会制定剣術形、1912年大日本帝国剣道形が制定されました。
 このような歴史を踏まえ、現代剣道の理合・間合・気合は剣道の「型」ともいえる剣道形を1981年全日本剣道連盟は原本の文章表現や用語および仮名遣いなどを見直し原本をやさしい文体に改めて分かりやすくするとともに、統一見解として「日本剣道形解説書」を制定されました。

剣道を知る その7 日本剣道形の草案

 日本剣道形の草案は、大日本武徳会と東京高等師範学校とが協議し、主査の根岸信五郎・辻眞平・内藤高治・門奈正・高野佐三郎の5名の先生が作成した。
 1912年大日本帝国剣道形を制定。1981年日本剣道形解説書を制定。

剣道を知る その8 日本剣道形の効果

日本剣道形の効果について】(1918年「剣道」高野佐三郎先生)
 ①剣道における礼法や落ち着きが身に付く
 ②正しい姿勢が養われる
 ③相手の動きや心気を観察する「観の目」が養われる
 ④体さばきが正しく機敏にできるようになる
 ⑤修練を重ねることによって「位」や「風格」が現れてくる
 ⑥技癖を取り除くことができる
 ⑦鎬遣い方と正しい刃筋の打突が習得できる
 ⑧正しい間合が習得できる
 ⑨気が練られ武術的真剣味が感得できる
 ⑩理合や技の合理性が理解できるようになる
 ⑪気のやりとり、呼吸、打突の機会、残心の内容が習得できる
 ⑫正しい太刀筋を覚えそのための太刀の遣い方ができるようになる
日本剣道形の修練によって以上のような効果が期待できることから、日本剣道形は、昇段審査の必須項目にもなっており、受験段位に対応した審査本数が決められております。

剣道を知る その9 礼法と所作

礼法と所作について
 古流(古武道)と呼ばれる多くの流派では、演舞を始める際、演武場の中央に太刀先を交えて木刀(刀)を置き、演武者は左右から進んで木刀(刀)の柄のところに蹲踞し、指先を床につける「指建礼(しけんれい)」を1800年頃から行っていたと言われております。
 そうした蹲踞礼の形式が立礼の形式に変わったのは、1906年大日本武徳会制定剣術形に明記されてからです。
 この立礼の形式は、「神前や天皇への礼」「師への礼」「同僚への礼」という三節の礼の形式と言われております。
 その後、1941年文部省によって「神前や天皇への礼」=最敬礼(約45度)「師への礼」=敬礼(約30度)(「同僚への礼」=会釈(約15度)と定められました。
 この座礼と立礼が混在する礼法は試合の礼法にも援用され、全日本剣道選手権大会はこの方式を採用しております。

剣道を知る その10 稽古の安全性(熱中症)

稽古の安全性(熱中症)について
 競技スポーツで死亡に至る危険性がある内科的疾患に熱中症があります。熱中症での死亡例は、屋外の太陽の下で長時間にわたって練習が行われる競技に多く見られます。その主な発生原因は、
 ①暑熱環境下での運動によって体温が異常に上昇すること
 ②汗により体の水分とミネラル(塩分)が失われてしまうこと
剣道の稽古にはこの二つが挙げられます。
 剣道において熱中症を防ぐためには、適切な休息と水分摂取が最も有効であると言われております。

剣道を知る その11 剣道の一本の思想

 剣道の一本は、お互いの構えや動きに隙が見いだせないまま、張り詰めた二人の攻防が続く。相手の動きの一瞬を突いて相手の面に竹刀が炸裂する。「面あり!」見事な一本が決まる。会場のどよめきの中開始線に戻る。まさに爽快感が全身を包む瞬間であります。
 剣道では、競技場面で「一本」の判定が下り、時計は止められても「ガッツポーズ」や「ことさらに一本を誇示する行為」は許されません。こうした「相手への礼を失した行為」があれば、即刻その「一本」は「見苦しい引き揚げ」取り消されてしまいます。
 こうした競技規則の中に盛り込まれる「一本の思想」は(武術-武芸-武道)の系譜から来ていると言われております。

剣道を知る その12 剣道の一本の内容

 剣道の一本は、記録競技のように計測されるものでも、採点競技のように演技後に得点計算されるものでもありません。
 技の技術性(運動の質・合理性)と、表現性(技術美と芸術美)の領域にまたがる「一本」を一瞬のうちに判定するものです。
 こうして「一本」の内容は、1927年大日本武徳会の「剣道試合審判規定」に「撃突は充実した気勢と刃筋正しき業および適正なる姿勢とを似て為したるを有効とす」と「気・剣・体の一致」の技としての大枠が示され、この三つの条件が今日の「有効打突(一本)」の基底をなすものとなっております。

剣道を知る その13 剣道の構え(中段/上段/下段)

 剣道の構えは、「中段の構え」が代表的であり、その他に上段、下段、八相、脇構えがあります。昔から、「五行の構え」または「五方の構え」などといわれ、現座の「日本剣道形」の中にも用いられております。
 「中段の構え」人の構え、常の構えともいわれ、すべての構えの基礎となる構えと言われています。攻防のいかなる変化にするにも最も都合良く、一番有利な構えだとされています。
 「上段の構え」天の構え、火の構えともいわれ、上から圧倒し、かつ炎のように激しい攻撃的な構えである。上段の構えにはいろいろありますが、左足を前に出した「諸手左上段」が一般的な構えだとされています。
 「下段の構え」地の構え、守備の構えともいわれ、自らが攻撃的に仕掛けていく構えではない。剣先を下げて、相手の足下を攻め、突くぞと見せて自分自身を守り、相手の変化に応じて攻撃に転ずる構えだとされています。

剣道を知る その14 剣道の構え(八相/脇構え)

 剣道の構えで「八相の構え」陰の構えともいわれ、諸手左上段の変形とも考えられます。自分から先に技を出さず、相手の出方により攻撃に転ずる構えとされています。
 「脇構え」陽の構えともいわれ、刀身の長さを相手に知られないように構え、相手の出方に対し臨機応変に攻撃していく構えとされています。

剣道を知る その15 二刀の構え

 二刀の構えは、太刀と小刀の日本の竹刀を同時に持つ時の構えであります。現代剣道における試合や稽古では、通常太刀が上段の構えである。
 右手に太刀を持ち左手に小刀を持つ「正二刀の構え」と、右手に小刀を持ち左手に太刀を持つ「逆二刀の構え」の二種類があるとされています。
 また、構えを大別すると有形的な「身構え」と無形的な「気(心)構え」の二種類に分けることができます。
 宮本武蔵は、究極の構えは「形の構え」を離れ「心の構え」に重きを置くことが最も重要と説いております。要するに形の構えに心を止めたり、心を奪われないことが「必勝の極意」であると教示されています。

剣道を知る その16 自然体

 剣道における「自然体」は、構えのもととなる体勢で、どこにも無理なく、よどみのない安定感のある姿勢と言われています。
 その要点としては、両足を平行にわずかに開き、重心を両足の中間に置きながら、両膝は自然に伸ばす。上体は、背筋を伸ばし、両肩の力を抜き、胸を軽く張り、下腹部にやや力を入れる。顎をわずかに引いて首筋を伸ばし、目は前方を正視することが重要を言われております。
 この自然体を十分に取り入れた「中段の構え」は、剣道の定石といわれ、すべての構えの基本となる構えと言われております。
 また、剣先のつけ方によって晴眼・正眼・青眼・星眼・臍眼((五せい眼)とも呼ばれ、心と体の調和のとれた堅実な構えと呼ばれております。
 隙のない理想的な「中段の構え」を作り上げていくには「竹刀の持ち方」「構え方」「足の踏み方」のバランスが特に重要と言われております。

剣道を知る その17 竹刀の持ち方/構え方/足の踏み方

「竹刀の持ち方」
 左手の小指を柄頭いっぱいにかけて上から握り、右手は左手から約ひと握り半程度離して握る。また、右拳は鍔よりわずかに離し、両手とも人差し指と親指の分かれ目が弦と一直線で結ばれるようにする。手の内は両手ともに小指・薬指を締め、人差し指と親指は軽く添えるように心掛け五指で強く握り締めないようにすること。
「構え方」
 自然体での歩行から右足を前に出したときの安定した姿勢が大事と言われています。左拳は下腹部臍前よりひと握り離し、左手親指の付け根の間接が臍の位置にくるようにします。両腕はふところを広くゆとりを持たせ、力を入れすぎないように構えます。剣先は、構えたその延長戦が相手の両目の中央、または左目に達するように構えます。
「足の踏み方」
 両足の爪先を正目に向け、左右の幅は拳約ひと握りとし、前後の開きは左足爪先を右足踵の位置に置きます。左踵をわずかに浮かせて体重を両足に等しくかけ、四方八方自在に移動できるように両膝は曲げず伸ばさず自然に保つようにします。

剣道を知る その18 姿勢

 立っている時の姿勢には、いくつかの種類があります。例えば「気を付け!」と言われて整列をした時などには、胸を張り緊張した姿勢となり、逆にホームで電車を待つ時などは、力を抜いた楽で疲れない姿勢を取ると思います。このように、姿勢は目的により違いがあります。
 剣道における姿勢は、竹刀を持って構えた時や、動作のもととなる構えの要素を持っていなければなりません。一瞬の機会をとらえて素早く動き、また相手の動きに応じて体をさばくことができ、加えて動作の初めから終わり、残心まで、バランスを崩さない安定した姿勢が必要と言われております。
 このような動きを可能にするための基本的な姿勢を自然体と呼ばれております。また、目的の動作の準備姿勢(構え)を動的姿勢と呼び、剣道に限らずスポーツすべてにおいて重要と言われております。

剣道を知る その19 目付け

 目の使い方や動きを剣道では目付けと呼び、古くから「一眼二足三胆四力」と言われ、大事な要素とされています。
 一般的には、相手の目を中心に体全体を見るようにし、特定の1カ所を凝視しないこととされています。特に、遠くの山を眺めるように相手全体を見ることを「遠山の目付け」と言われております。
 目は心の窓ともいわれるよいに、気持ちがあらわれやすい部分と言われております。自分より上手な人に自分の心を悟られないように、わざと相手の目を見ないようにする場面もあります。この目のつけ方を「脇目付け」などと呼ばれております。
 剣道においては、ただ漠然と相手を見るだけではなく、相手の状態や腕前、心の動きまでをも見抜くことが重要と言われております。
 宮本武蔵は、著書「五輪書」で、相手の本質を見る目「観の目」、単に現象を見る目「見の目」と呼んでおり、「観の目」を強く動かせることが大事と述べております。

剣道を知る その20 足裁き

 剣道において用いられる足の運び方を足裁きと言われております。代表的なものとして、「歩み足」「送り足」「開き足」「継ぎ足」の四つが挙げられます。
 「歩み足」は普通の歩行のように左右の足を交互に出して前に進み、あるいは後ろに下がる足の運び方です。比較的長い距離を移動する場合に使われます。
 「送り足」は進む方向へ一方の足を送り出し、もう一方の足を引き寄せる足の運び方で、剣道においては非常に多く用いられる足裁きです。比較的短い距離を用心深く移動する場合に使われます。
 「開き足」は、相手の打突をかわしながら打突したり、防ぐ時に使われる足に運び方です。足を運び終えた時に、相手に正対するようにします。
 「継ぎ足」は、左足を右足の横にいったん引き寄せておき、右足、左足と歩を進める足に運び方です。打突を行う際に、相手との距離が遠い場合などに用いられます。
 以上の四つの足の運び方では、構えを崩さないように、腰からできるだけ床に水平に移動するよう心掛けます。なお、踏み込み足による衝撃は、瞬間的に800kg重以上の力になると言われております。

剣道を知る その21 素振りの目的

 剣道における素振りとは、初心者から熟練者まですべての段階で行う稽古法の一つです。
 初心者は、竹刀の保持の仕方を習得したのち、足裁きを伴った素振りを教わることになります。
 経験を積んだ人は、自分の体格や年齢、体力に適した速さ、強さの素振りを行い、また、体力アップのために重い木刀で素振りを行うこともあります。

「素振りの目的」
○正しい竹刀の振り上げ、振り下ろし(太刀筋)。
○打突に必要な手の内(竹刀や木刀の握り方や冴え)。
○足裁き(体裁き)と関連させた打突の基礎。

 すなわち「素振り」には、剣道が求める「有効打突(一本)の条件」(気・剣・体の一致)が内包されています。

剣道を知る その22 素振りの種類

 「上下素振り」は、中段の構えから、右拳を支点に左手を押し上げ、竹刀を真っすぐに正中線に大きく振りかぶり、頭上に達したら止めることなく竹刀を振り下ろします。その際、遠心力により両肘が伸びるように左拳を下腹部の前まで引きつけ、剣先の位置は膝頭よりやや下まで十分に振り落とします。
 「斜め振り」は、中段の構えから大きく振りかぶり、竹刀を右斜め45度くらいの角度で左膝頭よりやや下の高さまで振り下ろします。通ってきた太刀筋を戻りながらさらに大きく振りかぶり頭上で返し、左斜め上から前と同じ要領で右膝頭よりやや下の高さまで振り下ろす動作を繰り返します。
 「空間打突」は、相手(目標)を仮想しその目標に向かって正面、左・右面、小手、胴、突きなどの打突動作を空間で行うものです。
 「跳躍素振り」は、中段から後退跳躍しながら振り上げ、前進跳躍しながら振り下ろす動作を繰り返すものです。踏切足を素早く引きつけることが重要と言われております。
 そのほか足腰の強化を目指し「左右面返し胴素振り」「股割素振り」「上下跳躍左右踏み替え素振り」などがあります。

剣道を知る その23 各部の名称

各部の名称

面
小手
小手
垂
竹刀
竹刀
剣道を知る その24 打突の部位

 打突の部位には、「竹刀の打突部」と打突の目標としての「剣道具の打突部位」とがあります。
 「竹刀の打突部」は、剣道試合・審判規則第13条で「物打を中心とした刃部(弦の反対側)とする」と定められています。
 「剣道具の打突部位」は、面部(正面および左右面)、小手部(右小手および左小手)、胴部(右胴および左胴)、突部(突き垂れ)と定められております。これらのうち左右面は「こめかみ部以上」、小手部は「中段の構えの右小手(左手前に左小手)および中段以外の構えなどのときの左小手または右小手」に限られます。さらに、小手部は小手布団部分に、突部は面の突き垂れ部分に限定されます。

剣道を知る その25 掛け声(発声)

「掛け声(発声)」
 掛け声とは、心に油断がなく、気力が充実した状態が、自然に声となって外にあらわれたものと言われております。
掛け声の目的は
○自分を励まし気力を充実させる。
○集中力を高め士気を高揚させる。
○相手を威圧し動きを制御する。
○相手の気の起こりや気の集中を挫く。
○相手を迷わせたり動揺させる。
○相手を引き出し誘う。
○気・剣・体一致をはかり打突の強度や正確性を高める。
と言われております。
 その方法については、呼気を伴い腹の底から自然にほとばしるように、打突と同時に打突部位をメン・コテ・ドウ・ツキと鋭い気勢で呼称すると言われております。

剣道を知る その26 「打ち方・突き方・打たせ方・突かせ方」(その1)

「打ち方・突き方・打たせ方・突かせ方」(その1)
 基本の打ち方・突き方は単に形式的な基本動作の習得ではなく、常に相手を「攻める気持ち」をもって行うことが重要と言われております。
 「正面打ち」は、両腕の間から相手の全身が見えるところまで大きく振りかぶり、右足から踏み込んで打ち込む。上肢の余分な力は抜き、肩を支点とした円運動で振り上げ、振り下ろしを行う。打った時は、両腕を伸ばす。打った時の剣先は天井方向を向くのではなく前方の壁に向ける気持ちで打つ。十分に左足を引きつけ背筋を伸ばして打ちます。
○打たせ方・・・剣先をやや右、あるいは右斜め下に開くようにする。
 「左右面打ち」は、両腕の間から相手の全身が見えるところまで大きく振りかぶり、頭上で手を返し、斜め上から45度くらいの角度で刃筋正しく相手の左右面を打つ。左右面の打突部位は「こめかみ部」より上部である。特に左右面を打つ時は左拳が正中線から外れないよう鳩尾の位置を保つように注意する。
○打たせ方・・・剣先をやや右、あるいは右斜め下に開くようにする。

面
剣道を知る その27 「打ち方・突き方・打たせ方・突かせ方」(その2)

「打ち方・突き方・打たせ方・突かせ方」(その2)
 「右小手打ち」は、両腕の間から相手の右小手が見える程度に振りかぶり、右足から踏み込んで打つ。横から相手の小手に当てるのではなく真っすぐに振り上げ振り下ろし、刃筋正しく打つ。
○打たせ方・・・剣先をやや上に上げる。相手が打ったら直ちに後ろへ下がって、十分に残心がとれるように距離をとるようにする。
 「右胴打ち」は、大きく振りかぶり頭上で手を返しながら相手の右胴を打つ。打つ時は、相手の全体を見ながら身体を横に曲げたり腰が引けた打ち方にならないように注意する。刃筋を正しくして平打ち(竹刀の横部で打つこと)にならないように注意して打つ。
○打たせ方・・・やや前に出るような気持ちで手元を上げるようにする。
 「諸手突き」は、右足から身体を進め、両拳をやや内側に絞りながら両腕を伸ばし、相手の咽喉部を手先だけではなく腰を入れ、身体全体で突く。突いた後は突きっぱなしにならないように直ちに引き、中段の構えに復することが重要である。突いた時、左拳が上がらないようにする。
○突かせ方・・・やや顎を引き剣先を右下に下げるようにする。

籠手
胴
突き
剣道を知る その28 面の受け方

 受け方には、「応じ技」の基本としての受け方(相手の打突を無効にするための受け方)と「元立ち」として初級者の打突の稽古を効果的にさせるための受け方(相手にとって打突しやすく、自分は安全であるような受け方)があります。
 「正面の受け方」は、わずかに前進しながら両腕を斜め上に伸ばし竹刀を斜めにして、自分の竹刀の左側または右側で受けます。受ける位置は自分の頭の高さより高く、できるだけ前方で受けます。竹刀の受ける位置は鍔元近くではなく、打突部に近いところで受けます。受けた時に姿勢が崩れないように、受けたら直ちに反撃できるような体勢と心構えが必要です。
 「左右面の受け方」は、竹刀を垂直に立てて、左(右)肩の方へ引き込むように受けます。受ける時の左拳の位置はほぼ腰の高さ、右拳の位置は乳の高さにして竹刀の左(右)側で受けます。両脇を開かないように注意し、左拳が自分の身体から外れないように受けます。また、左(右)斜め方向へ打ち落とすようにして受ける方法もあります。

剣道を知る その29 小手の受け方

 「小手の受け方」は、右足からわずかに前に出るようにし、右拳を内側に絞りながら右前に出して受けます。受ける時に、両脇が開きすぎると、相手の身体から剣先が外れやすくなるので注意が必要です。
 この受け方は、「小手すり上げ技」に発展するので、受けたら直ちに反撃できるような体勢と心構えが必要です。また、左足をわずかに後退させながら両腕を伸ばし、やや手元を上げて竹刀の左側で下から受ける方法もあります。この受け方は「小手返し技」に張ってします。

剣道を知る その30 胴の受け方・突きの受け方

 「胴の受け方は」は、左足からやや左斜め後ろにさばくと同時に、相手の竹刀を自分の竹刀の刃部の「物打ち」付近で斜め右下方向に打ち落とし、すかさず間合を勘案しながら打突できる体勢と心構えを整える。
 また、左足を左斜め前へ「開き足」を用いて、右足を左足の後ろに引き寄せて、身体を裁きながら左拳を顔の高さあるいは頭上まで上げ、右拳は左拳の右斜め下にして竹刀の左側で受ける方法もあります。
 「突きの受け方」は、右足よりわずかに前進しながら、自分の竹刀の左(右)側で斜め前方にすり上げて、相手の剣先の方向を変え、直ちに反撃できる体勢と心構えを持つようにします。相手の出てくる端(はな)をできるだけ「物打」付近ですり上げます。
 また、左足からわずかに後退しながら、相手の竹刀を斜め下方向に竹刀の左側を使って押さえるようにして萎やし入れる受け方もあります。

剣道を知る その31 体あたり

 「体あたり」とは、打突後の余勢を借りて自分の身体を相手に激しくぶつけて、相手の体勢を崩し、攻撃の機会を作る動作と言われております。
 また、技能の上達した者に対しては掛かり稽古時に体あたりの稽古を加え、足腰を鍛えるとともに気力の養成をはかることができると言われております。
 「体あたりの仕方」は、打突後の余勢を借りて、体が接触すると同時に手元(両拳)を下げ、腰から当たることにより、相手の気勢をくじき、退いたり、構えが崩れたところをすかさず打突します。手先だけでなく、腰を中心にして全身の力で当たります。
 打ちと体当たりがバラバラにならないように一連の動作で行います。相手が下がれば追い込んで打ち、また、相手の押す力を利用して退いて打ったり、体を横へ裁いたりします。暴力行為や打突に結びつかない単なる「体押し」にならないように注意する。

剣道を知る その32 体あたりの受け方

 「体あたりの受け方」は、手元を下げて十分な肩の力を抜き、下腹部に力を入れ、その場で受けるより、わずかに前進しながら腰を中心にして体当たりをするような気持ちで受けるようにします。
 体当たり同様、受ける場合にも手先だけではなく腰を中心に全身で受けるようにします。前後の足幅が狭くなり過ぎないように、左足の踵を床につけないように注意する。また、頭も下げないようにする。体当たりを正面で受けずに体を左右にさばいて、受け流す方法もあります。

剣道を知る その33 鍔ぜり合い

 「鍔ぜり合い」とは、相手を攻撃したり、相手が攻撃を加えてきた時に、互いに体が接触して鍔と鍔が競りある状態と言われております。この状態は、相手と最も接近して緊迫した間合いであり、試合の駆け引きで時間の引き延ばしとか攻撃の休み時間になってはならない。
 鍔ぜり合いになった場合は、積極的に技を出すか、解消するように努めなければなりません。二刀の場合には小刀を下に、太刀を上にして、二刀を交差します。
 「鍔ぜり合い仕方」は、自分の竹刀を少し右斜めにして手元を下げます。竹刀は、立て過ぎるのではなく、剣先は相手の方へ向けるような気持ちで下腹部に力を入れて、背筋を十分に伸ばします。左脇を軽く締めて左拳を安定させます。左拳の位置はおおよそ中段の構えの時と同じです。首を真っすぐに保って、相手と丈くらべをする気持ちで相対します。

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剣道を知る その34 木刀による剣道基本技稽古法

 「木刀による剣道基本技稽古法」とは、全日本剣道連盟によって平成15年に制定された稽古法です。
 この制定にあたっては、戦後の剣道が競技中心できたために、竹刀についての考え方やその取扱いの根底にあった日本刀およびその取扱いについての知識が希薄になっていたことへの反省と、大正元年に制定された日本剣道形が初心者にとって習得が容易なものではなくなっている等の議論がその背景にあったと言われております。
 この稽古法の目的として、
 1.「竹刀は日本刀」であるとの観念を理解させ、日本刀に関する知識(切先、横手、刃部、物打ち、鍔、柄頭など)を養う。
 2.木刀の操作によって剣道の基本技を習得させ、応用技への発展を可能にする。
 3.この稽古法の習得によって日本剣道形への移行を容易にする。
以上3点が示されました。
 技およびその構成は、次のとおりとなっております。
「基本1」一本打ちの技
     「正面」「小手」「胴(右胴)」「突き」
「基本2」二・三段の技(連続技)
     「小手→面」
「基本3」払い技
     「払い面(表)」
「基本4」引き技(鍔ぜり合い)
     「引き胴(右胴)」
「基本5」抜き技
     「面抜き胴(右胴)」
「基本6」すり上げ技
     「小手すり上げ面(裏)」
「基本7」出ばな技
     「出ばな小手」
「基本8」返し技
     「面返し胴(右胴)」
「基本9」打ち落とし技
     「胴(右胴)打ち落とし面」

剣道を知る その35 木刀による剣道基本技稽古法

 この稽古法は、受ける側を「元立ち」、打つ側を「掛かり手」と呼び、剣道着・袴のみの着用で稽古し、「掛かり手」の打突(実際は木刀を打突部位で寸止めする)が有効打となって終わるもので、運動の形態からすれば形稽古と言われております。
 稽古法の初めには座礼・立礼の方法、立会の間合、木刀の保持の仕方や抜き方、蹲踞の仕方、横手あたりの交差させる間合、構えの解き方、木刀の納め方などが明示されております。構えはすべて「中段の構え」に統一されており、立会の間合は「9歩の間合」で、歩み足で3歩進み「打突の間合」になります。
 打突の間合は、「一足一刀の間合」で、「打突」は右足から「送り足」で進み、左足(後ろ足)の迅速な引きつけにより「一拍子」で行います。掛け声は、打突の時、「面(メン)、小手(コテ)、胴(ドウ)、突き(ツキ)」と打突部位を呼称します。打突後、「残心」の構えはすべて「中段の構え」となります。
 技は、剣道の「仕掛け技」5本と「応じ技」4本の計9本で構成されております。

剣道を知る その36 上段の構えからの技

上段の構えからの技
 「上段の構え」は、竹刀を頭上に振りかぶる構えで、右足前、左足前、諸手、片手などいろいろな構えがありますが、その中でも諸手(右手は鍔元・左手は柄頭)左足前の「諸手左上段」が最も多く見られます。
 「上段の構え」は、「天の位」「火の構え」と言われ、強い気迫と攻めで、相手より先にしかけ、一撃で打ち勝つような気持ちが、特に気迫と攻めで、相手よりも先にしかけ、一撃で打ち勝つような気持ちが特に大切であるとされています。
 相手が、「突き」や「左小手」「右小手」などを攻めてくるところを「出ばな面」で打つ技は、「上段の構え」をとる者にとって最も有効な技と言われております。
 また、激しい気迫で攻め崩し、相手が居ついたり引く瞬間を打つ技も有効です。
 相手を十分に攻め圧している状態では「応じ技」も打突機会として有効で、相手の小手打ちを諸手を上げて抜き、すかさず面を打つ「小手抜き面」や相手の小手打ちや突きを打ち落とし、すかさず面を打つ「小手打ち落とし面」や「突き打ち落とし面」などが実際の試合では多く見られます。

剣道を知る その37 二刀の構えからの技

二刀の構えからの技
 「二刀の構え」には、右手に太刀、左手に小刀を持つ「正二刀」と。左手に太刀、右手に小刀を持つ「逆二刀」があります。
 実際の試合や稽古では、太刀を上段に振りかぶる「上下太刀の構え」や両刀を交差させず相手の中心部を攻める「中段の構え」また、「中段の構え」から竹刀を交差させる「中段十字の構え」などもあります。
 「上段の構え」「二刀の構え」ともに、片手打ちであっても、諸手の技同様「充実した気勢」で「適正な姿勢」をもって「刃筋正しく打突」することが「有効打突」「一本」の条件としても求められております。
 特に、「二刀」の場合、「小刀での打突が有効打突になるには、太刀で相手の太刀を制している場合で、打った方の肘がよく伸び、充実な打ちで条件を満たしていること」を必要用件とされております。但し、「鍔競り合いでの小刀の打突は原則として有効としない」と規定されています。
 さらに「鍔競り合い」の方法も「二刀の鍔競り合いは、小刀を下に、太刀を上とし、二刀を交差する形で指導する」を規定されているので、十分な修練が必要とされる技術と言われております。
 「上段の構え」「二刀の構え」に対する場合、どんな攻めにも動じない旺盛な気力で対することが必要とされ、常になめらかな足さばきと鋭い竹刀操作によって相手の「突き」や左右の「小手」を攻めるのが有効であり、相手に「出ばな」「退きばな」「居つき」など打突の機会を与えないことが大切です。
 なお、現在の「剣道試合・審判規則」では、「上段の構え」「二刀の構え」に対する「胸突」は有効打突として認められておりません。

剣道を知る その38 気合

 「気合」とは、相手の動きや自分の意図することに対して、気持ちを充実させた状態。または、そうした状態から発する掛け声と言われております。
 また、「渾身に気力を充満して、寸分の油断なく、精神を統一してすなわち純一無雑精気を臍下に集中して、夢想の境に入り、機に臨んでは、決河の勢いにて、その虚空に破り入らんとする気勢が気合いである」(剣道の理論と実際)で紹介されております。
 気合いとは、全身に気力を充満させ、少しの油断もなければ邪念もない状態を言います。気合いには、有声と無声とがあり、掛け声として外に発するものと、体内の気力に内蔵して声を外に発しないものとがある。いずれも相手に隙を与えず、また相手に一瞬の隙でも生じたら、直ちに打ち込む状態を言い、弓なら矢を満月に引き絞っていつでも放てる状態を言う。
 剣道では、気合いは極めて重要で、普段は自己より強い相手でも、試合でたまに勝ったりするのは気合いの充実度にほかならないと言われております。
 初心のうちは、相手に威力を感じさせるくらい、力のこもった、腹の底からの発声を心がけることによって、気合いが徐々に育成されます。
 また、気合の発現である掛け声は、単に「コテ・メン・ドウ・ツキ」の打突部位呼称や、やみくもに大きな声を出すことではなく、勇気を増し、打ち込む太刀の勢いを加え、敵を威嚇して敵の挙動を制し、心身の勢力を集中するものでなければならないと言われております。

剣道を知る その39 気位

 「気位」とは、「鍛錬を積み重ねたことによって得られた自信から生まれる威力、威風」(剣道指導要領)と言われております。
 また、長年の剣道修行による技術や精神の鍛錬によって、心技体の三拍子が研ぎ澄まされたときに初めて自然に生じるものです。相手と対峙した時には、常に気を高いところに置き、相手を見下ろし、動静を見渡せる境地のことであり、気位は剣道の品格を備えるうえで欠かせない条件と言われております。
 気位を高く保つためには、自分自身の乱れる心をコントロールするために呼吸法による修練も欠かすことができません。また、日本剣道形の修練によって、技術の向上ばかりでなく、気を練ることができて気迫・気合や発声が充実するとともに、気位が高まり、気品や風格が備わる効果も得られると言われております。

剣道を知る その40 「間」と「間合」

 「間」と「間合」について、全日本剣道連盟の「剣道指導要領」では、「間」をどちらかといえば時間意識でとらえており、「間合」については、空間・距離意識としてとらえているように一応区別されています。
 一般的には、間は打突のタイミングなど時間的感覚をいい、間合は相手との空間的距離を示す言葉として用いられております。
一足一刀の間合は、剣道の基本となる間合で、一歩踏み込めば相手を打突することができる距離であり、一歩下がれば相手の攻撃をかわすことのできる最も大切な間合と言われております。
○遠い間合(遠間)は、一足一刀の間合よりも遠い間合で、相手が打ち込んでも届かないかわりに、自分の攻撃も届かない距離と言われております。
○近い間合(近間)は、一足一刀の間合よりも近い間合で、自分の打ちが容易に届くかわりに相手の攻撃も届く距離と言われております。
 稽古や試合では、一足一刀の間合から技を出すように修練することが大切であり、この間合を「打ち間」「中間」と言われております。
 遠い間合は安全な距離ではあるが、この間合から一足一刀の間合にいかに攻め入るかが技術的な課題となります。近い間合は、腕を伸ばせば竹刀が相手に届く距離であり、足裁きを伴わない上肢だけでの打突になりやすく、有効打突を得るためには相手を下がらせたり、自分が下がって適当な距離をとるなどの工夫が必要であると言われております。
 また、鍔競り合いは、最も近い間合と考えることができます。高野佐三郎先生は、「三段の間合」として、初心者を相手にする時は間合を近くして種々の技を試みて練習し、同レベルの者と戦う時は一足一刀の間合で打突の失敗を恐れずに積極的に練習する。さらに、大事な試合や真剣勝負の場合は、間合を遠くとることが良いと言われております。
 剣道では、この間合を使い分けることが妙技であり、相手との間合があることが、体力差のある老若男女を問わずに竹刀を交えたり、高齢まで息長く剣道を楽しむことができる重要な要素と言われております。

剣道を知る その41 攻め

 「攻めと先」について、「攻撃は最大の防除である」と言われるように、剣道の有効打突を競い合う場合には、攻めは絶対に必要な条件であり、「攻める」ことを、相手と構えた均衝の状態から、有効打突に結びつけるために、自分が有利に打突の機会を見つけるための手段と言われております。
 剣道で相手を攻める方法には、
 剣先(構え)によって攻める「剣を殺す」「剣を殺す」とは、相手の竹刀を押さえる、払う、はじく、張る、捲くなどして相手の構えを崩し相手の竹刀を自由に使えないようにすること。
 技によって攻める「技を殺す」「技を殺す」とは、相手が打とうとするところを抑えたり、相手の得意な技を出させないように、機先を制すること。
 気(気位)によって攻める「気を殺す」「気を殺す」とは、相手を気力で圧倒し、積極的に技を仕掛けて、攻撃しようとする気をくじき、技を出させないようにすること。
「三殺法」があります。

剣道を知る その42 先

 剣道における先は、「先」「後の先」に分けられ、自分が先に打ちに出る場合が「先」で、相手が打ったあとに自分が打って出る場合が「後の先」と言われております。
 高野佐三郎先生は、相手の起こりが、形に現れるまでのきざしを見抜いて打ちを出し機先を制するのが「先々の先(懸りの先)」であり、相手が打ちを出し、それが効を奏しないうちに自分が相手の太刀を抜き、すり上げ、応じ返しなどして打つことが「先、先前の先(対の先)」と言われております。
 また、相手が打ちを出し、それを打ち落とし、相手の気勢がなえるところを打つのが「後の先、先後の先(待の先)」などと言われております。

剣道を知る その43 打突の好機

 打突の好機とは、相手との攻防で、相手の構え(体勢)の崩れや変化をとらえるなどして打突すれば、有効打突に結びつく機会のことと言われております。
 1.「相手の動作の起こり(頭)がしら」
  相手が、攻めに出るところ、技を出すところまたは出そうとする起こりがしらを素早く打突する。
 2.「技を受け止めたところ」
  相手が自分の技を受け止めたとき、すぐに技の変化に出るか攻めに転じない限り心が受け止めたところにとどまり隙となる。反対に自分の技を相手が受け止めた時にも同様に隙が生じる。
 3.「技の尽きたところ」
  相手が打突した技が不成立のとき、相手は次から次へと技を出してくるがそう連続して打ち続けられるものではない。その技の尽きたところまたは、技が次に移ろうとする切れ目を打突する。
 4.「居付いたところ」
  相手に攻められて、苦しくなり心の動きがなくなったり、また相手をいかにして打突しようかと考えたり、いろいろな状況によって心身の動きが停滞するところを打突する。
 5.「引くところ」
  攻められて引いたり、その場にいることが不利と思って備えをせずに後退したところ、または、鍔競り合いの接近したところから不用意な打突をして引くところを打突する。
 6.「心が乱れたところ」 
  驚(おどろく)懼(おそれる)疑(うたがう)惑(とまどう)の四戒が生じたり、相手に対してどのように打突しようか、また、どのように守ろうかなど、無心ではなく邪念によって心が乱れたところを打突する。
 7.「実を失って虚になったところ」
  何らかの影響によって、充実していた気力がなくなり、油断が生じたり、集中力が薄れたりするところを打突する。
 また、「三つの許さぬところ」として、「相手の動作の起こり(頭)がしら」「技を受け止めたところ」「技の尽きたところ」があります。
具体的な技として
 「相手の動作の起こり(頭)がしら」には、出ばな(出ばな面、出ばな小手)技。
 「技を受け止めたところ」には、連続(小手面、小手胴、面胴、小手面胴、面面胴など)技。
 「技の尽きたところ」には、応じ(面抜き胴、小手すり上げ面、面返し胴、胴打ち落とし面など)技。
などがあると言われております。

剣道を知る その44 打つべき機会

打つべき機会とは
 敵の実をさけて虚を打つ
 敵の起こりを打つ
 孤疑を打つ
 居付を打つ
 懸り口を打つ
 はせかせて打つ
と言われております。
試合に臨む時
 敵の粧を見て打つ
 敵の位を見て打つ
 敵の癖を見て打つ
 敵の起頭を心で押して打つ
 敵へは遠くして我よりは近くして打つ
 敵を釣出して打つ
 敵強く守らば虚実を似て打つ
 敵手元強くばよらずして打つ
と言われております。

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剣道を知る その45 有効打突

 有効打突とは、互いに「構え→攻め合い→打突の機会の見極めと技の選択→打突する→極める→残心」という一連の経過にあって、心技体をめぐる諸課題を的確に解決しながら、瞬間的に一つのまとまりあるものとして発現されて結実するものと言われております。
 ルール上の有効打突については、規則「第12条」有効打突は、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものとする。
 細則「第10条」規則第12条の「刃筋正しく」とは、竹刀の打突方向と刃部の向きが同一方向である場合とする。
「第11条」次の場合は、有効とすることができる。
 竹刀を落とした者に、直ちに加えた打突
 一方が、場外に出ると同時に加えた打突
 倒れた者に、直ちに加えた打突
「第12条」次の場合は、有効としない。
 有効打突が、両者同時にあった場合(相打ち)
 被打突者の剣先が、相手の上体全面についてその気勢、姿勢が充実していると判断した場合

剣道を知る その46 有効打突の考察

有効打突の実態の考察するにあたって
「充実した気勢」
 打突は、気の向き不向きや勝手気ままに発現したり、無軌道に竹刀を振り回し、これが打突部位にたまたま行き当たった結果ではなく、確固とした意志に基づいた気の動きが根源になければならないと言われております。
「適正な姿勢」
 上体と上体の基底部である腰の動的な安定感と、この腰を支えている左脚の備えが堅固であり正しい体裁きにより、身体の中心軸にブレや捻れのないことが正しい刃筋の打突に結びつくと言われております。
 「正しい刃筋」
 定められた打突部位に向かって力が集中していることです。すなわち、「正しい方向」と「力の集中」が要素となります。正しい方向とは、打突部位の点に向かって、竹刀を振り下ろす方向線と、竹刀の峰と刃を結ぶ線とが同一線上にあることです。力の集中とは、衝撃となる打撃力が、並進運動と回転運動の併合によって、打ち下ろされる竹刀の打突部(物打)に集中していることです。
「残心あるもの」
 残心とは打突後の油断のない「身構え」「気構え」であって、両者が一つのまとまりとして充実し、相手の反撃に備えて対敵の状態になっていなければならないと言われております。

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剣道を知る その47 残心

 残心とは、打突した後でも油断することなく、相手の反撃に直ちに対応出来る「身構え」と「気構え」が基盤になって、おのずと自分の剣先を相手に付ける対敵の状態になる(太刀構え)ものと言われております。
 残心とは、打突した後に心を残そうと思って打ち込んでいったのでは、心を残そうとするところに心が止まってしまうので、全力で打ち込むことによっておのずと心が残るものであるとされています。
 古くから、打突後に残心がないことを「引き揚げ」といって戒められており、現在の規則では、残心がなければ有効打突にならないことになっております。

剣道を知る その48 試合の見方

 試合の見方について戦後の剣道復活に貢献した中野八十二先生は、それまでの術理というとらえ方を試合技能という形で新たに説明している。
 試合技能は、姿勢、構え、目付け、間合、剣先の動き、基本的攻撃法(三殺法)、基本打突の好機、打突の方向(太刀筋)、打突の基本的条件(気剣体の一致)、機先の制し方(三つの先)、虚と実、拍子、残心、心気力一致、気合等の要素から構成されると言われております。
 1.剣先の威力や動きは勝敗に大きな影響を持っている。「剣先が効いている」「剣先の攻めがある」などということは、次の打突を有利に導く源になる場合が多いことから、試合者の剣先の動きに注目して見る。
 2.打突の好機は、打たれる側からすれば隙ととらえられる。隙は心の隙と体の隙に分けられているが、心と体は表裏一体のものであり、心のみ、体のみの隙を判断することは困難である。打突の好機は、心の動きや体の動きの起こりばながその一つとして挙げられる。どのような好機(隙)をとらえたのか、どのような隙が生じたのかに注目して見る。
 3.先に攻められ、機先を制せられると相手は技を出すことができず、一瞬体が止まり、心が居ついたりする場合が多い。試合では、「先」をとって機先を制すると制しないとでは、戦いの主導権を握るか否かになるので、試合中の「先」の取り方に注目して見る。
 4.剣道の技は、相手の構え、間合の取り方、虚と実などの攻め方によって、種々な技が生まれる。どのようなしかけ技や応じ技が出現するのかに期待して見る。同時に、一足一刀の間合から出現する出ばな技、二段・三段の技、払い技などのしかけ技、あるいわ、相手の技に対しての、すり上げ技、返し技などの応じ技が、どのような状況から発現したのかに注目して見る。
 5.攻め方には、三つの捌きがあると言われております。剣を殺し、技を殺し、気を殺すといわれる攻め方(三殺法)である。剣を殺すとは、相手の竹刀操作を自由にさせないこと。技を殺すとは、得意技を封じること。気を殺すとは、相手の気力を損なわせることである。このような攻め方に注目して見る。
 6.剣道の有効打突は、単に打突部位に当たりさえすれば一本という判定ではない。剣道実践者は、この気剣体の一致した打突が完全にできるようになるために、修練に修練を重ねて修行しており、到達点はない。修練度や状況における有効打突があり、試合の見方の大切な一つとなります。
 7.試合の目的は、試合を立派に行うことと、勝つことである。特に、剣道は、人間形成を目的に行われてきた伝統を重視して、礼儀作法正しく、姿勢態度を立派に行い、常に相手を尊敬し、武道精神のもとで行うことが最も大切とされています。こうした試合者の態度に注目して見る。

剣道を知る その49 試合の種類

試合の種類(選手権大会・個人戦・団体戦・勝ち抜き・リーグなど)
 剣道の「選手権大会」として最も権威があり代表的な試合が、天皇杯「全日本剣道選手権大会」皇后杯「全日本女子剣道選手権大会」であります。この大会は、各県の厳しい選考を勝ち抜いた実力者が覇権を争う、名実ともに剣道日本一を決定する個人戦(選手権大会)です。
 このほか、警察官で競う選手権大会、実業団、教職員、大学生の大会などでも日本一を競う選手権大会が行われておりますが、大学生の大会では、個人戦の最優秀者を決める大会を(選手権大会)、団体戦の最優秀団体を決める大会を(優勝大会)と銘打っています。
 これらの大会は、全日本剣道連盟が定めるところの「剣道試合・審判規則」「剣道試合・審判細則」および「剣道試合・審判・運営要領の手引き」に基づいて実施され、試合時間は5分を基準とし、延長の場合は3分とすることになっています。
 ただし、大会によって、決勝・準決勝試合時間を10分に設定したり、女性の試合時間を4分に設定したり、また、延長を「時間を区切らず勝敗の決するまで」行う場合もあります。
 個人戦の場合は、原則3本勝負で2本を先取した者を勝ちとするが、一方が1本を取り、そのまま試合時間が終了した場合は、この者を勝ちとします。

剣道を知る その50 試合の種類Ⅱ

試合の種類Ⅱ
 団体戦の場合も、個人戦同様「剣道試合・審判規則」などの諸規則・細則にそって行われますが、加えてそれぞれの大会で定められた諸規定などに基づき勝敗を決します。
 団体戦は、大きく分けると「勝者数法」と「勝ち抜き法」に分けられ、通常、各チーム3人、5人、7人のように奇数人数で編成されています。
 「勝者数法」は、各対戦3本勝負で行われることが一般的で、勝者の数によって団体の勝敗を決する方法です。勝者数が同数の場合は、取得総本数の多い方を勝ちとし、取得総本数も同様の場合は、そのまま引き分けとするか、選手権のように勝者を決定しなければならない大会では、代表者戦によって勝敗を決します。代表者戦はそれぞれのチームの任意で選ばれた選手で行われる場合が多いですが、再度、大将同士が代表戦を行ったり、最初に引き分けた者同士が代表戦を行うなどの方法を採用する大会もあります。
 「勝ち抜き法」は、勝者が続けて試合を行い、相手チームの選手を先に抜ききったチームを勝ちとする試合方式です。この形式をとる代表的な試合は、「全日本学生剣道東西対抗試合」「玉竜旗高校剣道大会」などがあります。通常3本勝負で行う大会が多いですが、運営上1本勝負にする大会もあります。
 「リーグ戦」は、個人戦・団体戦ともに行われる試合形式で同一リーグ内の選手およびチームが総当たりで勝敗を競う試合です。勝ち数や引き分けなどのポイント合計で順位を競う試合であり、勝ち数のポイントが同数の場合は、取得本数で勝敗を決します。取得本数も同数の場合は、順位決定戦を行います。その他、予選リーグ戦で行い、リーグ上位進出者をトーナメントで競わせ優勝を決定する方法などが採用される大会もあります。

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剣道を知る その51 異種試合

異種試合
 現在、競技として剣道と他の武道の異種試合はほとんど見られませんが、武術・武芸はもともと、使う道具やルールを規定せずに戦ったことから、それを想定した立会が「全日本剣道演武大会(京都大会)」などで行われております。
 また、過去に「剣道対鎖鎌」「剣道対槍」などが行われたことが記録に残っておりますが、ルールが明確に示されているわけではないので、あくまでも立会という色合いが強いです。
 なぎなたは、剣道と有効打突や打突部位が類似していることもあり「全日本剣道演武大会」でも、ほぼ毎年「剣道対なぎなた」の立会が行われるほか、西日本学生剣道大会では、過去8年間にわたって「剣道対なぎなた」の団体戦が行われていました。

剣道を知る その52 大会の運営Ⅰ

大会の運営Ⅰ
 現在の試合については、全日本剣道連盟で定められている「剣道試合・審判規則」「剣道試合・審判細則」また、「剣道試合・審判・運営要領の手引き」にそって実施されることが大切であります。
 特に、試合者・審判・運営に携わる者は、全て「剣道試合・審判規則」(本規則の目的)第1条「この規則は、全日本剣道連盟の剣道試合につき、剣の理法を全うしつつ、公明正大に試合をし、適正公平に審判することを目的とする」と明記されている趣旨に基づいて行われる必要があります。
 試合を開催するにあたっては、主催者は共催団体と連携し、後援を得ながら大会準備を進めて行きます。会場の確保から、開催日時の決定、試合方法の決定なども試合を運営していくうえで非常に重要な業務となります。
 また、大会の趣旨などにより「剣道試合・審判規則」「剣道試合・審判細則」「剣道試合・審判・運営要領の手引き」のほかに「大会注意事項」などで試合者のレベルに応じて「申し合わせ事項」を設ける場合もあります。
 試合者の参加申し込みを受けて、プログラムの作成や審判の依頼、会場の設営なども事前の準備として必要です。
 大会に先立って、審判講習会や審判会議などを開催し、有効打突の確認や審判員の運営要領について意思統一を図るなど、試合者だけでなく観衆など見ている人にも納得できるような審判が求められます。

活動報告写真

剣道を知る その53 大会の運営Ⅱ

大会の運営Ⅱ
 大会を行うには、大会会長、副会長、顧問、参与などの役員をたてる場合が多く、実際の運営は、大会委員長・副委員長・大会委員をはじめとする役員と審判員によって運営されます。
 審判員には、コートごとに審判主任を置くなどして、円滑な運営がなされるように準備が必要です。さらに、大会実行委員として、場内係、竹刀の計量係、会場の警備係、記録係、放送係をはじめとする部署に、スタッフを配置することが必要になります。
 不測の事態に備えて、試合者や会場に参加している関係者の怪我、急病などに適切に対応できるように、顧問医師を配置したり、AEDの設置場所を確認したり携行することが大会を運営する側の準備として配慮されるべきです。

剣道を知る その54 試合の進め方

試合の進め方
 試合の進め方については、試合者・審判員ともに「剣道試合・審判規則」「剣道試合・審判細則」に付記されている「付 剣道試合・審判運営要領」ならびに「剣道試合・審判・運営要領の手引き」に従って進められるが、各種試合によって、どのような方法で実施されるか確認したうえで、スムーズに整然と執り行われことが重要となります。
 審判員の位置取り、所作などは、理想的なものが示されていますが、基本的に決まりはありませんが、原理原則を知ったうえで、状況に合わせ最も適切な判定・判断をするための動き方ができなければなりません。
 よって、常にこれらに精通し、実際の審判を行う機会を積極的にもち、審判技能を高めていかなければなりません。

剣道を知る その55 試合者と審判員のルールⅠ

試合者と審判員のルールⅠ
[入場等]
1. 試合者は入退場の際、選手席に整列し監督の指示で正面に礼をした後着座または退場します。
[整列]
2. 団体試合の場合、先鋒・次鋒は剣道具を着け、竹刀を持って立礼の位置(開始の線手前3歩。以下同じ)に整列し、主審の「礼」の号令により相互の礼を行います。
引き続き次の試合が行われる場合、試合場内に2チーム1列で並ぶ。ただし、2チーム1列で並べない場合は、この限りではない。

試合前後の整列方法(1チームの場合)
試合前後の整列方法(1チームの場合)
試合前後の整列方法(2チームの場合)
試合前後の整列方法(2チームの場合)

 [正面への礼]
1. 試合者は次の場合、主審の号令により正面への礼を行います。
 (1) 第1試合の開始時および決勝戦の開始時と終了時に行います。
 (2) 試合が2日以上にわたる場合第1試合の開始時と最後の試合の終了時および決勝戦の開始時と終了時に行います。
 (3) 正面への礼は、立礼の位置で行います。
[開始]
1. 試合者は、試合を開始する場合、立礼の位置に進み、提げ刀の姿勢で相互の礼を行い、帯刀し、3歩進んで開始線で竹刀を抜き合わせつつ、蹲踞し主審の宣告で試合を開始します。
[有効打突]
1. 試合者は、主審の有効打突の宣告があった場合、直ちに試合を中止し、開始線に戻り相中段に構え、主審の宣告を受けます。
[中止の要請]
1. 試合者は、試合の中止を要請する場合、手を上げ、かつ主審に向かって発声し、直ちにその理由を主審に申し述べることになっています。
2. 試合者は、着装の乱れを直すときは、開始線で立ったまま納刀し、境界線の内側まで後退し、蹲踞もしくは正座して速やかに行います。
[中止]
1. 試合者は審判員の「止め」の宣告があった場合、直ちに試合を中止し、開始線に戻り、主審の宣告または指示を受けます。
[合議]
1. 試合者は主審が合議の宣告をした場合、開始線で立ったまま納刀し、境界線の内側まで後退し、蹲踞もしくは正座で待機します。
[再開]
1. 試合者は、中止後に試合を再開する場合、開始線で立ったまま相中段に構え、主審の宣告により試合を再開します。
[分かれ]
1. 試合者は、主審の「分かれ」の宣告があった場合、直ちに間合いを取り、相中段に構え、主審の宣告で試合を継続します。
[異議の申し立て]
1. 監督が異議の申し立てをした場合、試合者は「合議」の場合の要領で待機します。
[判定・抽選勝ち・試合不能]
1. 試合後は、判定により勝敗を決する場合、開始線で相中段に構え、主審の宣告を受けます。
2. 試合者は、抽選および試合不能により勝敗を決する場合、上記1.によります。
[不戦勝ち]
1. 試合者は、不戦勝ちで勝者の宣告を受ける場合、試合を行う要領で開始線に進み、立ち上がったところで主審の宣告を受け、蹲踞して納刀し元に戻ります。
2. 団体試合の不戦勝ちの場合は、全試合者は立礼の位置で主審の宣告を受けます。
 [終了]
1. 試合者は、試合を終了する場合、開始線で相中段に構え、主審の宣告の後、蹲踞して納刀し、立ち上がり帯刀姿勢で立礼の位置まで後退し、提げ刀の姿勢となり相互の礼を行います。
2. 団体試合が終了した場合、両団体は立礼の位置に整列し、主審の号令で団体間の礼を行い退場します。この場合、最後の試合者は剣道具をつけ竹刀を持ち整列します。

剣道を知る その56 試合者と審判員のルールⅡ

試合者と審判員のルールⅡ
[その他の要領]
1. 試合者が二刀を使用する場合は次の要領で行います。
 (1) 小刀および大刀を共に提げ刀します。
 (2) 構えるときは、最初に右手で左手に持つ竹刀を抜いて左手に持ち替え次に右手に持つ刀を構えます。
 (3) 納めるときは、最初に右手に持った竹刀を納め次に左手に持った竹刀を右手に持ち替え納めます。
(4) その他は一刀の場合の要領に準じて行います。
2. 試合者の服装は清潔で、綻びや破れのないものとします。
3. 剣道具は試合中、乱れないように堅固に着装する。なお、面紐の長さは結び目から40センチメートル以内とします。
4. 試合者は試合場内では相互の礼のみとし、審判員に対する礼や相互の個人的な座礼などは行いません。
5. 試合者が交替する際、胴づき、握手などの行為をしてはならない。
6. 試合者は審判員が移動して定位置につくまで試合場に入ってはならない。
7. 次の試合者は、前の試合者が試合場内から出るまでは試合場内に入ってはならない。
8. 監督・試合者は選手席への時計の持ち込み、サインなどによる指示や試合者への声援をしてはならない。
9. 先鋒戦および最後の試合者の対戦の場合、控えの試合者は正座することが望ましい。
[入場等]
1. 審判員が入退場する場合、主審を中央に審判旗を右手に持ち境界線内側中央に整列します。

審判員の入場および整列
審判員の入場および整列
終了した場合審判員の交替
終了した審判員の交替
剣道を知る その57 試合者と審判員のルールⅢ

試合者と審判員のルールⅢ
[試合開始前の審判員の移動および旗の保持]
1. 審判員の移動は次による。
(1) 個人試合(第1試合)の場合、整列後、定位置へ移動します。
(2) 団体試合の場合、整列し主審の号令により団体相互の礼の後、定位置に移動します。

審判員定位置
審判員の定位置

2. 審判員の旗の保持は次による。
 (1) 移動する場合、両旗を右手に持ちます。
 (2) 定位置に移動後は、主審は赤旗を右手、白旗を左手に持ち、副審は その逆(白旗を右手、赤旗 を  
左手)に持ちます。
 (3) 交替する場合は、白旗を中に赤旗を外にして両旗を巻きます。
[審判員の交替]
1.審判員の交替要領は、次による。
[主審と副審の移動交替]
(1) 各審判員は、両旗を巻かずに、定位置に移動し交替します。

副審の移動交替
主審・副審の移動交替

[その場での審判員の交替]
(2) 各審判員は、両旗を巻き、次の審判員と相互の礼を行い交替します。

その場での審判員の交替
その場での審判員の交替

[移動しての1名の交替]
(3) 各審判員は、定位置に移動し、主審を終えた審判員は両旗を巻き、次の審判員と相互の礼を行い 交替します。

審判員が移動して交替
審判員が移動して交替

[終了した審判員の交替]
(4) 終了した審判員は、両旗を巻き、整列し次の審判員と交替します。

終了した場合審判員の交替
終了した審判員の交替
剣道を知る その58 試合者と審判員のルールⅣ

試合者と審判員のルールⅣ
[正面への礼]
1. 審判員は、正面への礼を次の場合に行います。
(1) 第1試合の開始時および決勝戦の開始時と終了時に行います。
(2) 試合が2日以上にわたる場合、第1試合の開始時と最後の試合の終了時および決勝戦の開始時と終了時に行います。
2. 主審は、次の場合に、正面への礼の号令を行います。
(1) 個人試合の場合、審判員が定位置、試合者が立札の位置についた直後に行います。
(2) 団体試合の場合、審判員および試合者が整列した直後に行います。

[開始]
1. 審判長は、第1試合開始の場合、次により行います。
(1) 1試合場の場合は、最初の試合者が立礼の位置に立ったとき起立します。
(2) 2試合場以上の場合は、最初の試合者が立礼の位置に立ち、全体が揃ったとき、起立し笛などで合図します。
2. 主審は、第1試合開始の場合、審判長の合図の後、試合開始の宣告を行います。

開始・再開・終了
開始・再開・終了
両旗は体側につける(基本姿勢)

剣道を知る その59 試合者と審判員のルールⅤ

試合者と審判員のルールⅤ
[有効打突]
1. 審判員の旗の表示は次による。
(1) 有効打突が決定した場合、審判員は旗を表示したまま定位置に戻り、主審の宣告で旗を下ろします。
(2) 有効打突が決定しない場合、審判員は直ちに旗の表示を止めます。
(3) 有効打突を認めない旗の表示をした場合、他の審判員がその表示を確認した後、旗を振ることを止めます。
(4) 主審が有効打突を認めない表示、または棄権の表示をし、有効打突が決定した場合、主審は、有効の表示を行います。
 2. 有効打突を取り消す場合、主審は合議開始前の旗の表示に戻り、宣告して両旗を左右に振ります。

有功打突・判定・勝敗の決定
有功打突・判定・勝敗の決定のとき
旗を斜め上方に上げる
有効打突を認めないか取り消すとき・相殺のとき
有効打突を認めないか取り消すとき・相殺のとき
両旗を前下で左右に振る
有功打突の判定を棄権したとき
有功打突の判定を棄権したとき
両旗を前下で交差させ停止する
剣道を知る その60 試合者と審判員のルールⅥ

試合者と審判員のルールⅥ
[中止の要請]
1. 試合者より試合中止の要請があった場合、主審は直ちに試合を中止し、中止要請の理由を質します。(試合、審判規則第29条5号)。
2. 前項の中止要請が不当と審判員が判断した場合、合議を行います。
[中止]
1. 審判員の中止宣告は、次の場合に行います。
 (1) 反則の事実
 (2) 負傷や事故
 (3) 危険防止
 (4) 竹刀操作不能の状態
 (5) 異議の申し立て
 (6) 合議
2. 中止宣告の場合、審判員は次による。
 (1) 中止の宣告があった場合、審判員は定位置に戻ります。
 (2) 試合者双方が中止宣告または旗の表示を確認したとき、審判員は旗を下ろします。
 (3) 反則が認められた場合、審判員は旗を表示したまま定位置に戻り主審の宣告で旗の表示を止めます。
 (4) 副審が中止の宣告をした場合、主審は直ちに試合中止の宣告と同時に旗の表示を行います。
3. 一方の試合者が竹刀を落とした場合または倒れた場合に相手が直ちに打突をしないとき、主審は 試合を中止します。
4. 反則と認めた場合、主審は一方の旗を片方の手に持ち替え、反則者に「反則○回」と指で示しながら宣告し、基本姿勢に戻ります。
5. 双方の試合者が同時反則を犯し、白(赤)に一本が与えられる場合、主審は白・赤(赤・白)の順で宣告を行います。

中止のとき
中止のとき
両旗を真上に上げる
反則のとき
反則のとき
旗を斜め下方に下げる
同じ反則のとき
同じ反則のとき
両旗を斜め下方に上げる
剣道を知る その61 試合者と審判員のルールⅦ

試合者と審判員のルールⅦ
[合議]

1. 審判員の合議は次の場合に行います。
 (1) 有効打突の取り消し
 (2) 審判員の錯誤
 (3) 反則の事実が不明瞭な場合
 (4) 規則の運用および実施の疑義
2. 審判員は合議を次により行う。
 (1) 試合者双方を主審は、境界線の内側まで後退させます。
 (2) 副審が合議を要請する場合、副審が「止め」の宣告後、直ちに主審が「止め」の宣告し試合を中止します。その後、副審が「合議」の宣告し、直ちに主審が「合議」の宣告します。

合議のとき
合議のとき
両旗を右手に持って真上に上げる

[再開]
1.「2本目」または「勝負」の場合、副審は、主審の宣告と同時に、表示した旗を下ろします。
2.試合中止後に再開する場合、主審は、試合開始の要領で行います。
[分かれ]
1.試合者がつば(鍔)競り合いがこうちゃく(膠着)した場合、主審は 「分かれ」の宣告と同時に「両旗を前方に出し」、両者を分け、その場で、「始め」の宣告と同時に両旗を下ろし試合を継続します。なお、一方の試合者が境界線を背にしている場合、主審は迅速に両者の位置を調整します。

分かれのとき
分かれのとき
両旗を前方に出す

剣道を知る その62 試合者と審判員のルールⅧ

試合者と審判員のルールⅧ
 [異議の申し立て]

1. 審判員は異議の申し立てがあった場合、次による。
 (1) 審判員は、直ちに試合を中止します。
 (2) 審判主任または審判長は、審判員に疑義の内容を合議します。
 (3) 審判主任または審判長は、その結果を監督に伝えます。
 (4) 主審は、試合を再開します。
[判定・抽選勝ち・試合不能]
1. 判定で勝敗を決する場合、審判員は主審の「判定」の宣告に合わせ勝者と判断した側の旗を表示する。この場合、引き分けまたは棄権の表示はできない。
2. 抽選および試合不能により勝敗の宣告をする場合、主審は勝者側に宣告と同時に表示した旗を下ろします。
[不戦勝ち]
1. 個人試合の場合、主審は勝者側に宣告と旗の表示を行います。
2. 団体試合の場合、主審は勝ちチームを整列させた後、宣告と同時に旗の表示を行います。
[終了]
1.勝敗が決した場合または試合時間が終了した場合、主審は試合を中止し、試合者を開始線に戻した後、宣告と同時に旗の表示を行う。なお、延長の場合、延長の宣告をし、試合を再開します。
2. 団体試合を終了する場合、審判員は整列し主審の号令で団体間の礼を行わます。

引き分けのとき
引き分けのとき
両旗は前上で交差させて停止する

剣道を知る その63 試合者と審判員のルールⅨ

試合者と審判員のルールⅨ
[その他の要領]
1.審判員は、試合開始前、試合者の服装(剣道着・袴・目印・名札)の適否を確認します。
2.審判員は、試合者の用具(剣道具・竹刀・つば(鍔))の適否を確認します(試合・審判規則第3 条・第4条
試合審判細則第3条・第4条)。
3.主審は、試合者が不適切な礼法を行った場合、指導します。
4.審判員は、試合者が試合終了後、選手席などで不適切な言動を行った場合もしくは行おうとした場合、厳正に指導します。
5.各係員は、円滑な任務が遂行できるよう、審判主任または審判長を 中心に事前に緊密な連携を取り、迅速かつ正確に任務を遂行します。
6.掲示係は、審判旗の点検・確認をし、審判席に置く(1会場6組)。

2.掲示方法
1.提示項目および掲示内容
剣道を知る その64 剣道試合・審判規則および細則Ⅰ

剣道試合・審判規則および細則Ⅰ
 「剣道試合・審判規則、剣道試合・審判細則」は、全日本剣道連盟によって定められており、これに従って剣道の試合が運営されています。
 剣道の試合は本来、自己の技量を検証するために行われ、江戸時代末期より検証・自己審判による判定方法が踏襲してとられていました。
 そのため、明治28年に開始された大日本武徳会演武大会でもその規則は「試合者心得」「審判員心得」としてのみ示され、試合よりも演武という観念が強く働いていたと言われております。
 しかし、試合数の増加により勝負へのこだわりが増し、競技面を否定できないようになっていきました。
 戦時体制下では、剣道を大きく戦技化すべくその規則も変容しましたが、昭和27年に「剣道は体育スポーツである」として全日本剣道連盟が結成され、昭和28年に「全日本剣道連盟試合規則」「全日本剣道連盟審判規定」が施行されました。

剣道を知る その65 剣道試合・審判規則および細則Ⅱ

剣道試合・審判規則および細則Ⅱ
 現在の「剣道試合・審判規則、剣道試合・審判細則」は、平成7年から施行されており、その第1条の目的としては、「剣の理法を全うしつつ、公明正大に試合をし、適正公平に審判すること」と揚げられております。
 このように制定されている目的について「試合を通じて日本の伝統文化である剣道を正しく継承し、人間形成を醸成する目的で制定された」とし、さらに「剣道の特性や教育的な意義を考慮しながら、社会の一般的な通念や普遍性などを基盤にし、これを試合の場面に適応させて構成した」と説明されています。
 したがって、「剣道試合・審判規則、剣道試合・審判細則」は、第1条の目的を達成するための試合場・竹刀・剣道具に関する規格、試合進行に関する規則、有効打突の規定、禁止事項に関する罰則、審判員の表示方法について定められています。
 そこには、競技者がフェアプレーの精神にて勝敗を競い合う競技性とともに、文化的価値や教育的意義を重視した伝統性とのバランスも求められます。

剣道を知る その66 剣道試合・審判規則および細則Ⅲ

剣道試合・審判規則および細則Ⅲ
 剣道においては、他のスポーツ競技と同様に勝利を追求する競技性は当然あるものの、試合のあり方やそれにかかわる勝敗も剣道修行の手段・方法であるという理念を実現させようとするものです。
 たとえば多くのスポーツ種目では、勝利や得点の喜びを体全体で自由に表現している場面がよく見られます。
 しかし、剣道では「有効打突の取り消し」として、規則第27条で「主審が有効打突の宣告をした後でも、審判員は合議の上、その宣告を取り消すことができる」と定められております。
 これは、審判員の旗が上がった後でも、打突後に残心(相手に対する身構えと心構え)がなかった場合や、勝利を誇示した場合(いわゆるガッツポーズ等)には有効打突が取り消されるということを定めております。
 つまり、いかなる場合でも気を緩めないようにという戒めとともに、相手(敗者)に対して思いやる気持ちを持ち続けることが大切であるという考えに基づいています。
 このように剣道の試合・審判規則は、競技性のみならず伝統性も重視しているという大きな特徴を持っています。

剣道を知る その67 試合運営上留意すべき事項(審判Ⅰ)

試合運営上留意すべき事項(審判Ⅰ)
 競技者は、技量の発揮による勝敗の競い合いだけではなく、礼法をはじめとした所作をしっかりと行い、相互に尊重し合うことが重要です。
 つまり、試合運営にあたる審判員は、その目的を常に念頭に置き、試合を通して競技者の成長を促すように審判を行わなわなければなりません。剣道の試合においては、審判員に絶対的な権限が与えられます。
 したがって、公平な立場で妥当性と客観性に基づいた判定を行い、競技者および観客から信頼を得られなければなりません。
審判員の基礎的条件としては、
 ①規則に精通している。
 ②審判技術に熟達している。
 ③剣理を熟知している。
 ④健康である。
さらに審判員としての重要な任務は、
 ①試合をスムーズに運営する。
 ②有効打突を正しく見極める。
 ③禁止行為について厳正な判断を行い処置する。
 ④審判員相互の意思統一を図る。
等が挙げられます。

剣道を知る その68 試合運営上留意すべき事項(審判Ⅱ)

試合運営上留意すべき事項(審判Ⅱ)
 剣道の特性上、審判員の判定は常に一連の運動経過に対する総合的な判断が求められます。
 特に、有効打突に関しては規則第12条に「充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるもの」と規定されており、諸条件を満たした一連の打突動作を的確に見極めて、正しく判定しなければならないと言われております。
 さらに、試合者の技術段階、体力・年齢・その他によって変わってくるため、審判員が十分に配慮して判定することが求められています。このような審判の判定は、試合者がその後も剣道を続ける上でのさまざまな基準に対して大きな影響を与えるとともに、観客に対しても同様の影響を与えます。
 したがって、審判員は、剣道に対する価値観や文化的継承に対して責任を負うこととなることを十分に理解しておかなくてはなりません。

剣道を知る その69 試合運営上留意すべき事項(審判Ⅲ)

試合運営上留意すべき事項(審判Ⅲ)
 打突後に示される残心(相手に対する身構えと気構え)について、応じ技などでは打突時に瞬間的に残心を示す場合があるため、よく観察を行って見極めることが大切と言われております。
 さらに反則事項についても「違法・不当・適法・適正」などの概念を正しく解釈して、一連の経過の中から現象としての「結果」と「原因」の関係を見極めて、規則に基づいて判断しなければなりません。
 もちろん、試合前後を含め適正な試合環境が確保されているかに目を配り、的確な判断に基づいて安全に試合運営を行い、試合中の竹刀および剣道具の破損などにも常に注意を払う必要があります。

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剣道を知る その70 三審制

(三審制)
 試合規則では、主審が1名、副審2名で試合審判にあたることになっています。試合運営は主審があたりますが、副審も同等の権利を持っています。
 古くは一審制で行われていました。それは審判の技量が高い専門家(剣道家)が行うもので、高名な剣道家の判定は絶対であり、間違いはないという考え方があったからです。この名残は京都大会の‘立会’に見られます。
 次に二審制が登場し、主審の裏側に副審を配置、主審が見えない時のみに副審に尋ねていました。
 昭和初期に学生剣道界を中心に試合数が急増すると、専門家以外の卒業生なども審判する必要性が生じ、公平性の視点から3名で審判をおこなうようになりました。

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剣道を知る その71 大会(全日本剣道選手権)

大会(全日本剣道選手権)
 全国規模の大会は、大正から昭和初期に原型を見ることができますが、終戦後の禁止時期を経て昭和27年10月14日に全日本剣道連盟が結成されたこともあり、戦後に始まった主な全国大会について紹介します。
 全日本剣道連盟結成を契機に第1回大会全日本剣道選手権大会が昭和28年11月に開催され、榊原 正選手(愛知県)に初の栄冠が輝き、現在では61回(2013年現在)を数える。
 大会には都道府県予選の優勝者と人口の多い東京、大阪などから複数名が出場、64名で覇を競う。1958年に天皇杯が下賜、名実ともに日本一を競う大会になった。
 1964年、東京オリンピックのために日本武道館が完成、以後毎年日本武道館で開かれ、剣士の憧れの大会となっています。

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剣道を知る その72 大会(全日本剣道演武大会:京都大会)

大会(全日本剣道演武大会:京都大会)
 京都大会は、戦後初の全国大会として昭和28年5月に開催されました。
 この大会は明治28年に始まった大日本武徳会武徳祭大演武会を継承するもので、毎年5月京都岡崎の武徳殿に全国から二千余名の高段者(現在は錬士六段以上)が参集、東西に分かれ演武(試合)を披露します。今までは通算109回、戦後61回を数え、最も格式と伝統のある大会です。

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剣道を知る その73 大会(全日本都道府県対抗剣道優勝大会)

大会(全日本都道府県対抗剣道優勝大会
 昭和28年に京都大会の一部として始まり、3年後の第4回から分離独立し大阪で毎年開催されています。
 大会は団体戦で行われているが、職域、年齢、性別にバラエティに富んだ選手構成で、選手は職域、年齢を超えて郷土の栄誉のために戦います。
 当初は5名戦だったが平成10年から女子を加えた7人戦になり、平成21年から全日本都道府県対抗女子剣道優勝大会の開催により大学生・高校生を加えた男子だけの7人戦(先鋒:高校生、次鋒:大学生、五将:18歳以上35歳未満の社会人、中堅:教職員、三将:警察職員、副将:35歳以上の社会人、大将:50歳以上で教士七段以上)となっております。

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剣道を知る その74 大会(全日本東西対抗剣道大会)

大会(全日本東西対抗剣道大会)
 昭和29年に復活し、戦後59回を数える。この大会の主旨は、心技ともに円熟した剣士の品位があり、香り高い試合によって、剣道の真の良さを世に問うというところにあり、現在も選抜された東西一流剣士が勝者数法または勝ち抜き法によって技と心を競っています。
 大会は全国を持ち回りで開催し、一流剣士の試合を見る機会の少ない地方愛好家にとって剣道の良さに触れることのできる唯一の大会です。

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剣道を知る その75 大会(国人体育大会)

大会(国人体育大会)
 昭和27年の第7回にしない競技が参加、昭和30年の第10回から正式種目となる。成年男子、成年女子、少年男子、少年女子の団体戦が行われ、ブロック予選(成年男子を除く)を経て、部門および総合優勝を目指して戦います。
 成年男子、少年男子、少年女子は5人制、成年女子は3人制の団体戦を行います。試合は、3本勝負が原則で、試合時間内に2本先取した者が勝ちです。試合時間は、成年男女は5分間、少年男女は4分間になります。ただし、一方が1本先取してそのまま試合時間が終了した場合、先取した者が勝ちとなります。時間内に勝敗が決まらなかった場合は、1本勝負の延長戦を行います。
 国体への参加は、剣道が競技として完全復活したことを意味していると言えます。

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剣道を知る その76 アンチ・ドーピング(ドーピング防止)

アンチ・ドーピング(ドーピング防止)
 剣道界におけるドーピング防止活動の取り組みとしては、平成7年に行われた試合審判規則の改訂で「禁止薬物の使用を禁ずる」旨の規定を追加したのが初めてである。
 その後、平成11年に世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が発足するなど、ドーピング防止活動の規模が拡大し、その取り組みが国際的に加速してきたのに呼称して、国際剣道連盟(FIK)も平成19年に世界アンチ・ドーピング規定の批准を行いました。同年12月には国際剣道連盟アンチ・ドーピング規定が理事会にて承認され、国際ルールに基づくドーピング防止活動が開始されました。
 国際剣道連盟アンチ・ドーピング規定の冒頭には、「試合者の技術向上を目的とした薬物使用行為は、試合者の健康面への配慮と剣道理念および剣道試合・審判規則の目的に相反するものである」と記されています。剣道界におけるドーピング防止活動は、剣道理念に基づくものとして位置づけられている活動と言えると思います。

剣道を知る その77 段位・称号前史①

段位・称号前史①
 近世初期に成立した剣術諸流派は、和歌の古今伝授にならって「切紙伝授」の方式を採用したと言われております。
 明治維新後、「段位」制にいち早く着目したのは、古流柔術を近代的な柔道へと改良していた嘉納治五郎である。明治16年には、囲碁や将棋の「段位」制を参考にして、最初の「初段」を富田常次郎と西郷四郎に允許している。
 これに対し、「警視庁にては今度各警察署巡査の撃剣等級を定め、同庁巡査本部へ掲示されし由にて、其等級は二級より八級までなりと云ふ」(絵入朝野新聞)と報じられているように、剣道は警視庁が「級」制度を採用したことにより「級」が一般化しました。
 こうして柔道は「段」、剣道は「級」という別々の等級制度が制度化・一般化されたが、大正元年に大日本帝国剣道形がされたのを機に、大日本武徳会における等級制度の一本化が話し合われたと言われております。
 すでに、東京高等師範学校剣道部では、明治41年より段位制を採用しており、流れとしては段位制への移行という動きが強かった。そして、大正6年剣道も柔道と同じ段位制への移行が認められました。

剣道を知る その78 段位・称号前史②

段位・称号前史②
 大正6年当時、当面「五段」までで、それ以上は「精練証(のちの錬士)」「教士」「範士」という称号の下位等級という位置付けでの一本化であった。
 剣道で「六段」以上が認定されたのは、昭和12年のことで、このときは、九段5人、八段5人、七段20人が一挙に昇段している。しかし、称号と段位を併用する精度が出来上がっても、段位を肩書きに使う例はほとんどなく、通常は「錬士」「教士」「範士」の称号のみを使っていました。文字どおり、称号と段位を併記するようになるのは、戦後のことで、特に、「範士八段」というように、称号の下に段位を併記するようになったのは、平成12年の「剣道称号・段位審査規則」の改正で「称号・段位を通じ、範士を最高位とする」と定めて以降のことである。それまでは、「八段範士」といういい方も多くなされていました。

【大正6年3月に統一された「級」と「段」の比較表】
(旧) 一級上 一級下 二級上 二級下 三級上 三級中 三級下 四級上
(新) 十 段 九 段 八 段 七 段 六 段 五 段 五 段 四 段
(旧) 四級中 四級下 五級上 五級中 五級下 六級上 六級中  六級下
(新) 三 段 二 段  初 段 一 級 二 級  三 級  四 級  五 級
剣道を知る その79 昇段審査について①

昇段審査について①
 段位は、初段ないし八段とし、それぞれ次の各号の基準に該当する者に与えられる。
(1)初段は、剣道の基本を修習し、技倆良なる者
(2)二段は、剣道の基本を修得し、技倆良好なる者
(3)三段は、剣道の基本を修錬し、技倆優なる者 
(4)四段は、剣道の基本と応用を修熟し、技倆優良なる者
(5)五段は、剣道の基本と応用に錬熟し、技倆秀なる者
(6)六段は、剣道の精義に錬達し、技倆優秀なる者
(7)七段は、剣道の精義に熟達し、技倆秀逸なる者
(8)八段は、剣道の奥義に通暁、成熟し、技倆円熟なる者
  加盟団体の審査
(1)初段ないし五段の審査は、全剣連会長が加盟団体に委任して行う。
(2)前項の審査は、本規則によるほか、別に定めるところによりこれを行う。
  受審資格
1.段位を受審しようとする者は、加盟団体の登録会員であって、次の各号の条件を満たさなければならない。
(1)初段 一級受有者で、満13歳以上の者
(2)二段 初段受有後1年以上修業した者
(3)三段 二段受有後2年以上修業した者
(4)四段 三段受有後3年以上修業した者
(5)五段 四段受有後4年以上修業した者
(6)六段 五段受有後5年以上修業した者
(7)七段 六段受有後6年以上修業した者
(8)八段 七段受有後10年以上修業し、年齢46歳以上の者
2.次の各号のいずれかに該当し、加盟団体会長が特段の事由があると認めて許可した者は、前項の規定にかかわらず当該段位を受審することができる。
(1) 二段から五段までの受審を希望し、次の年齢に達した者
  二段・・・35歳
  三段・・・40歳
  四段・・・45歳
  五段・・・50歳
(2)初段ないし五段の受審を希望し、次の修業年限を経て、特に優秀と認められる者
  初段・・・一級受有者
  二段・・・初段受有後3か月
  三段・・・二段受有後1年
  四段・・・三段受有後2年
  五段・・・四段受有後3年

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剣道を知る その80 昇段審査について②

昇段審査について②
審査の方法
1.段位の審査は、実技、日本剣道形(以下「形」という。)および学科について行う。
2.学科の審査は、筆記試験により行う。
3.初段ないし七段の審査において、形または学科審査の不合格者は、その科目を再受審することができる。
4.八段の実技審査は、第一次と第二次を行い、第一次に合格した者が、第二次を受審することができる。
5.八段の形および学科審査は、実技審査合格者について講習を行ったうえで実施する。
6.前5項に規定するもののほか、審査の方法および運営については別に定める。

審査の合否
1.初段ないし三段の審査は、審査員5人中3名以上の合意により合格と判定する。
2.四段ないし七段の審査は、審査員6人中4名以上の合意により合格と判定する。
3.八段の第一次実技審査は、審査員6人中4名以上の合意により合格と判定し、第二次実技審査は、審査員9人6名以上の合意により合格と判定する。
4.六段から八段までの形審査は、審査員3人中2人以上の合意により合格と判定する。

特別措置
 会長は、段位審査の審査会において合格と判定された受審者に対し、当該審査の合格決定を行うものとする。ただし、特段の事由があると認める場合には、全剣連選考委員会に諮問した上、不合格決定を行うことができる。
 会長は、全剣連段位審査の審査会において不合格と判定された受審者であっても、特段の事由があると認めた場合には、当該判定に係る合意の内容を斟酌し、全剣連選考委員会に諮問した上、当該審査合格の決定を行うことができる。
 会長は、不正の手段を用いて段位の審査を受審しようとした受審者に対し、当該審査手続を中止することができる。会長は、同様の手段を用いて当該段位審査において合格の判定又は決定を得た受審者に対し、当該判定又は決定を取り消して不合格の決定を行うことができる。 第2項から前項までの規定は、地方段位審査の審査会における合否判定に準用する。 

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剣道を知る その81 昇段審査会合格の鍵①

昇段審査会合格の鍵①
審査員は、平成12年4月に施行された全日本剣道連盟の「剣道称号・段位審査規則」第14条付与規準と段位審査の着眼点に示されたこと、合わせて審査員の経験則を踏まえて判断し、合否を決定するものでありますから、受審者はその内容をよく理解して受験することが大切です。
◎初段~五段受審者全般
着衣、着装
◇稽古着、袴、剣道具の着装がその人にフィットしていて見映えの良い事が大切です。
1.袴のたけ、 短すぎて足のすね迄見えるもの、長すぎて引きずるものなどは不可。
2.面紐の長さ、 結び目から40cmにそろえ、上部の面紐の不揃いを直す。
3.小手紐の長さ、 一端が長く垂れ下がらないようにする。
4.竹刀、 鍔止めを使用し、鍔がしっかり固定されるようにする。中結いの位置を正しくし、弦がとれたりしないように固定する。
5.道衣、(稽古着) 背中にふくらみが出ないように、きちんと引っ張っておくこと。
6.面、 手拭がヒラヒラしない様に、手拭の端を折って面を着ける。
7.面紐、胴の胸紐、 解けないようにしっかりと結ぶ、胴の後ろ紐は、花結びにすること。
礼法
◇姿勢、態度は構えの原点であり、蹲踞は獅子の位といわれます。
相手と対峙して蹲踞までの身構えに、威厳のある堂々とした姿勢が望ましいと思います。
これは平素の稽古において心掛ければ備わるものです。
審査は、審査場に歩み出て、相手と向かい合った時から始まっている。礼をおろそかにするとマイナス材料になります。
立会いは9歩の間隔をとって向かい合い、提刀のまま立礼(約15度上体を倒す)をし、帯刀して右足から3歩前進する。そして、蹲踞をしながら剣先が触れるか触れない程度に竹刀を抜き合わせる。
  (※現在では、開始線の位置が定められています)
姿勢、態度、中段の構え
◇構えは土台です。蹲踞から立ち上がった時の気構え、身構えに、段位に相応しい風格、品位が備わっていなければと思います。腹構え、腰構え、胸構え、顎構えの釣り合いが良く、背筋の通った後ろ姿の美しい構えが望ましい。独楽(コマ)を例えれば、触れればたちまちはじき出すような、気魄がみなぎっている構えであって欲しいと思います。
段審査においては、姿勢、態度が重要視されます。普段行っている中段の構えを、じっくり鏡に写して点検しておけば一番良いと思います。
1.足の向き、 両方のつまさきが前方を向いていること。
2.背筋、 きちんと伸びていること、背中が丸まっていると、良い印象を与えないからです。
3.上半身、 肩などに余計な力が入っていないこと、又、顎が上がっていないこと。
4.手、 右手、左手、とも、上から握ること、人差指と親指の分かれ目が弦の延長線上に有るようにする。又、左手の位置にも注意すること、(正中線をはずさないこと、下腹部臍前に絞り上げた状態にすること)
5.両肘、 張りすぎ、絞りすぎに注意すること。
6.剣先、 相手の咽喉の高さで、延長が相手の両目の間を向くようにする。
7.目付、 相手の目を中心に、相手の身体全体を見ること。
とくに、竹刀の握りが横からの握りになっていないか、どうか注意すること。
ここまでの項目は、基本中の基ですから、たとえ、段審査がなくても、必ず確認しておくこと。

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剣道を知る その82 昇段審査会合格の鍵②

昇段審査会合格の鍵②
審査の立会い
◇剣道は、切るか切られるかという緊迫の中、互いに中心の取り合いの攻防から、自分の打ち間に入り、攻め勝っての気剣体一致の打突が求められます。
自分の打ち間から攻め勝っての捉えた撃ちについて先人の剣歌に、
「張れや張れ ただゆるみなきあずさ弓 放つ矢先はしらぬなりけり」
「切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ 踏み込みみればあとは極楽」
という訓えがあります。良くあじわいたいものです。
◇無理打ち、無駄打ちのない理合にかなった打突
打突の機会でもないのに無理な打突、無駄な打突、理合の外れたアテッコ剣道、姿勢を意識しすぎてか攻めのない打突になっている人が目につきます。
◇打突の機会(三つの許さぬところ)について
(1)敵の起こり頭
(2)受け止めたところ
(3)技の尽きたところ
(4)退くところ
(5)居ついたところ
など撃つべき機会は多いものです。
剣道は、昔から生死をかけた格闘技であるから、互いの根性の錬り合い、叩き合いもあるでしょうが、風格、品位の言葉にほど遠くなります。
隙がなければ撃つなといわれています。「心の隙、構えの隙、動作の隙」、この隙は見逃すな、もし隙がなければ崩して隙を作って撃てといわれます。
三つの隙
(1)心の隙とは、心は動作を起す根源であるが、この心にどこか隙があること。剣道の四戒のことであります。頭上満々却下満々全身に気をみなぎらせることが大事です。
 「こころこそ こころ迷わすこころなれ こころにこころ こころ許すな」
(2)構えの隙とは、構えに隙があれば、直ちに打ち込まれるので、体勢を整え十分な構えが必要です。形だけのものでは「時計の振り子」と何等変わらないのであります。例えば、手元が上がりすぎの構え、剣先が下がりすぎの構え、竹刀を握る手に力が入りすぎの構えなどです。
(3)動作の隙とは、打突の機会です。 審査は短時間です。短時間の内に隙は数少ないので、打突の機会は逃さず初太刀は絶対取る気概が大切です。
隙の捉えた撃ちについて先人の剣歌に「敵をただ撃つと思うな身を守れ おのずから洩る賎ヶ家の月」という訓えがあります。月の明かりは隙間があれば瞬時に射し込む様子です。
捨て切る時には、気を臍下丹田に下げ、左手、左腰、左足を意識して、充実した気魄で捨て切ることです。捨て切るとは、打ち切ることです。捨て切ることについて、先人の訓えに「露の位」という訓えがあります。露の位とは、草葉の露はわずかな物に触れるとたちまち地に落ちます。いわゆる溜めたものを瞬時に爆発させる。打ち切ることです。打ち切った後は、きびきびした気構え、身構えが大切です。次に掛け声について、蹲踞から立ち上がり、位を作った後の掛け声、打った時のしり上がりの掛け声とその余韻のある残心を心掛けることも大切なことです。平素の稽古にあっては、無理打ち、無駄打ちをなくし、剣道理念に即した稽古を求め、初太刀の一本は絶対取る気構えで、積もったつもりの稽古ではなく、積もる稽古を心掛けることが大切であると思います。

剣道を知る その83 昇段審査会合格の鍵③ ☆ 初 段 編 ☆

昇段審査会合格の鍵③
☆ 初 段 編 ☆

立合い
 まず、面を正しく、大きく、打つこと。
1.大きく振りかぶること。
2.体を反らせすぎたり、丸めたりせず、真っ直伸ばすこと。
3.左足、左腰が残らないように、重心(腰)を水平に移動させ、しっかりと踏み込むこと。
4.竹刀の「物打ち」の部分で、しっかり正確に打つこと。
5.両こぶしが、身体の正中線上を通るよう、真っ直にうつこと。
要は、ゆっくりでいいから、大きく振りかぶり、きちんと踏み込んで打つことです。
 小手、胴、打ち、小手、胴は、身体が崩れやすいので、「ボロ」が出るので、あまり使わなくても良いのですが、初段に必要なものは、「面打ちを基調とした基本技」ですから、基本通り正しく打てば、正しく評価されます。小手は、手打ちになりやすいので、きちんと振りかぶることです。
 胴は、左のこぶしが、身体の中心から外れないこと、刃筋を正しく通すこと、背筋を真っ直ぐにして、身体をネヂ曲げたりしないことを注意してください。技の種類よりも、むしろ大切なものは、積極性です。充実した気勢、気迫、気合い、などは、重要な審査の材料になります。力強い発声で気合いを掛けることがまず第一です。そして、打たれまいと、防御に気を取られるよりも、前に攻めて打つことが大切です。守って逃げてばかりでは、評価されません。又、審査の時間が短いからと云って、むやみ、やたらりと打つのではなく、正しく一足一刀の間合いから打って出るのが必要です。「実技審査が互格稽古でなく、掛かり稽古のようになってしまつている」と云う声が、多く出ています。試合ではありませんが、勝負の積もりで行う必要が或るでしょう。
 気、剣、体の一致と云うことは、初段でも要求される剣道の基本です。
 残心、 打突後も決して、気を抜かず、正しい残心を示しているかどうかも重要なポイントです。
 切り替えし 切り替えしを見れば、立ち会いを見なくとも、合否は判断出来る、とまで言われています。
 毎回の稽古の時から、正しく行えるようにして下さい、特に、振りかぶる時は、左こぶしを頭上まで上げること、常に正中線上を移動させるのがポイントです。

剣道を知る その84 昇段審査会合格の鍵④ ☆ 二 段 編 ☆

昇段審査会合格の鍵④
☆ 二 段 編 ☆

 二段の受審資格は、修業年限が「初段受有後一年以上修業した者」となっています。
 したがって受審者の多くは高校生である。体力にものをいわせて、スポーツ剣道に傾きやすい年齢です。それだけに、審査にのぞんでは、特に注意する必要があるでしょう。それは、自分の剣道を正しい方向に軌道修正する機会でもあります。二段だからと云って、初段とは全く別のことが求められている訳では有りません。初段の技能に何が、プラスされたかが問われるものです。昨年までの各都道府県の実績を見ると、初段の合格率よりも二段の合格率の方が良くなっています。初段を獲得できるだけの実力がある者ならば、その後も真剣に稽古を積んでさえいれば、二段だからと恐れるに足りず、と云うところでしょう。
二段合格の基準
 初段プラス、何が必要か、
 まず、心して置きたい事は、二段の審査では、「初段に必要な条件にプラスされている部分」が見られる訳ですが、それだけでなく、「初段に必要な条件」そのものも、審査員の目に曝されると云うことです。初段審査の時は、たまたまボロが出なかっただけかも知れない。つまり、初段を持っているからと云って、基本的な部分が完全に身についていると思ってはいけません。初段合格後の修業の間に、試合にとらわれて技が小さくなっていないか、妙なクセがついていないかをチェックしておくのが肝要です。
二段に必要な技とは 
 打つべき機会、と技。二段審査では、”機会を正しくとらへて技を出しているかどうか”を見ると云う審査員の声が最も多かったものです。勿論、機会を捕らえることは、剣道修業の上では、人生の課題で有って、八段、九段、になっても完璧に出来るものとは限りません。それでは、二段に求められている技と正しい機会の捕らえ方は、どんなものか記しておきます。
基本的な仕掛け技、(仕掛けて行く技)
 1.一本打ちの技
 2.払い技
 3.二、三、段の技
 4.出ばな技
 5.引き技
 6.かつぎ技
 7.片手技
 8.上段技
 9.まき技
が挙げられます。
二段クラスでは、このうち 1.~5.までのうち、基本的なものがこなせれば良いでしょう。
 1.の一本打ちの技は、仕掛け技の原点としてここに分類してありますが、初段の審査でも勿論必要な技でもあり、基本にのっとった面打ちがまず大切です。メン、コテ、ドウ、とも、間合いを正しくとって、大きく踏み込むことです。
 2.の払い技では、払いメン、払いコテ、など。相手が出ようとするところ、引こうとするところが払う機会であり、それをうまくとらえて打てば高いポイントになります。手先の技にならないように、腰から踏み込んで行くことです。
 3.の二段、三段打ちでは、コテ・・・メン、メン・・・メン、の他に、コテ・・・ドウ、メン・・・ドウ、コテ・・・メン・・・ドウ、など。もちろん審査の中で何種類も出すのは不可能ですから、自分の得意技を磨いておいて、自然に出るようにするものです。相手が受け止めたところを打つ、と云う意味で、機会を捉えた技として有効技になります。
 4.出ばな技は、機会を捕らえているかどうかが技自体のポイントですから、このクラスの審査では決まればかなりの有効打ですから、出ばなメン、出ゴテ、とも思いキッテ前に出ることが必要です。
 5.引き技。実際の審査では、鍔競り合いになる場面も多く、機をとらえた引き技も有効です。これは、足さばきが特に重要であり、左足から大きく下がることが大切です。
 これに付け加えれば、相手も攻めてくるので、その時、無防備に打たれてしまわないように、応じ技が自然に出来るようにすれば完全です。
最後に打つべき機会を記しておきます。
 1.相手の出鼻、(出鼻メン、出ゴテ)
 2.相手が受け止めたところ、
 3.相手の技がつきたところ、
 4.相手が居付いたところ、(かかとを下し休んだところ)
 5.相手が引くところ、
 やはり基本が大切、もちろん、ここにあげたすべての技を、時間内に出すのは不可能です。二段に求められているのは、やはり基本。メン技を中心に自分の得意の仕掛け技を普段から練習する事です。
 1.正しい間合いでの攻め合いが出来ること。
 2.力強い発声を出すこと。
 3.竹刀さばき(刃筋)正しく操作していること(掌の内)。
 4.攻め合いの中で打つ機会をとらえてわざを出すこと。
 5.踏み込んだ迫力のある面技。二段打ちが出ていること。
 6.応じ技が出ていること。
 7.二段受験者らしい互角稽古が無理なくできていること。

剣道を知る その85 昇段審査会合格の鍵⑤ ☆ 三 段 編 ☆

昇段審査会合格の鍵⑤
☆ 三 段 編 ☆

 三段の受審資格は、修業年限が「二段受有後二年以上修業したもの」となっています。
 年齢の点から考えても、三段は「ただ基本に忠実に」と云う段階から一歩進んだレベルの剣道が求められていると同時に、四、五段の前に、もう一度基本を総点検するという段階です。
 初、二段と三段の間には壁が有る
 初、二段の合格率がほぼ同じレベルだったのに比べ、三段は、わずかではあるが、あきらかに難しくなっております。都道府県によっては、三段に限らず、高体連、学連、が受審者を集めて審査をおこなっておりますが、合格率から見て、高体連、学連、の審査は難しいように思われます。
 三段には、一つの壁が有るように感じられることでしょう。しかし、まだこの段階では、『風格』とか『気品』とか言った項目までは求められておりません。ですが四、五段になると、審査基準の中に「風格」とか「気品」と云った項目が見られますが、三段ではそこまで求められておりません。
三段は基本の総まとめ
 三段の合格基準は、主に、次のようなものです。
1.機会を正しくとらえること(特に、先と後の先に関して)
2.攻めのある打突
3.間合いの使い方
4.気迫
5.残心
6.応用技能
1~6項から、有効打突が、2~3本出すこと、となっています。
剣先をきかせて攻める
 先と後、よく学科試験に出題される問題ですが、三っの先を考え理解したうえで、むやみやたらに打つのではなく、剣先の攻めあいから機会を捕らえて、有効打突に結びつけるものです。
 どこにも隙のない中段の構えに対して、ただいたずらに打ち込んでいくのは無謀な話です。三段受審者は十代から二十台前半の若者が多く、スピードや力にまかせて、有効打突を取れることもあるでしょうが、それはまぐれ当たりでしかなく、少なくも段位審査では評価されません。当然相手も隙だらけの構えをしている訳はありません。従って、気の攻め、剣先の攻めで相手を崩して有効打突を取るのがポイントです。
技の種類と質
 基本的には、二段の場合と変わりありませんが、三段の条件として「引き技」や「すりあげ技」を覚え、自分の得意技を作っておいた方がよいでしょう。
仕掛け技は、およそ次ぎのようになります。
(1) 一本打ちの技
(2) はらい技
(3) 二、三段技
(4) 出ばな技
(5) 引き技
応じ技は、次ぎのようになります。
(1) 摺り上げ技
(2) 返し技
(3) 打ち落とし技
(4) 抜き技
 「先と後」、よく学科試験に出題される問題ですが、三っの先を考え理解した上で、むやみやたらに打つのでは無く、剣先の攻めあいから機会を捕らえて有効打突に結びつけるのです。
 三段審査には、十代から二十代前半の若い方々が多く、スピードや力にまかせてやたらと打ちまくります。ときには、有効打突も有るでしょうが、それはまぐれ当たりでしか無く、審査会では評価されません。
 従って、年配の方は、所謂(※いわゆる大人の剣道)をして下さい。それは、剣先の攻めで相手を崩して有効打突を取るのがポイントです。
 その練習方法としては、基本的な『技』としては、当然、「仕掛け技」「応じ技」「引き技」「すりあげ技」を覚えることですが、これらの技がすべて出来る訳ではありませんので、審査時にも自然に技が出るように『量より質』を高め、自分の得意技を持つことです。
 三段の審査時間は、初段、二段と同じ位いですから、焦って「掛かり稽古」にならぬようにして下さい。これはマイナス点に評価されます。「気迫」と「残心」がポイントになっていますがこれは目に見えない物ですから、普段の稽古の時から剣道に対する取組方を留意し、打突後は必ず相手に対して構え、『隙あらば打つ』の良い癖を付けておいて下さい。
 三段までが、地区の審査であったものが、四、五段は都道府県の審査となり、六、七段の審査は、全日本の審査となります。

剣道を知る その86 昇段審査会合格の鍵⑥ ☆ 四 段 編 ☆

昇段審査会合格の鍵⑥
☆ 四 段 編 ☆

 年令適には、二十歳以上になり、責任を持った大人に与えられる段位です。
 初心者や、少年の指導的役割を果たすことも、ある程度要求されるレベルです。従って三段までとは審査方法にいくつかの違いがみられ、より厳正になっています。合格基準のなかにも、『気位』『品位』と言った抽象的、精神的、な要素が入って来ています。剣道に対する取組む姿勢が問われる段階になった訳です。
 各剣道連盟の四段合格基準の項目を多い順に述べますと、「剣先のきいた攻め」「風格、品位、気位」「指導者としての資格」となっています。三段の審査でも、「攻めのある打突」という項目が合格基準の一つになっていましたが、四段では「剣先のきいた攻め」が要求されています。
 「勝って打て、打って勝つな」の諺のように、このクラスになると剣先で攻めて相手を崩して、打ったのでなければ、たとえ打突部位を打突したとしても評価されないものです。
 基本的に一番大切なのは、子供の頃から教わった通り、竹刀の握りを柔らかくすることです。そして、厳しい剣先の攻めでこちらは、中心をとって攻めれば、相手は苦しく、剣先を上下、左右、に移動させるか、打に出ますから、自然とそこに隙が出来ますから、有効打突を決めるのです。
 相手の剣先が下がったらメン又はツキ。相手の剣先が上がったらコテ。相手の手元が上がったらドウ。というのが原則ですが、それらの動きを引き出すための、剣先の動きが重要になってくるのです。
 また、昇段審査は試合と違って、二本取られたら終り、と言うわけではありませんが、やはり当たった相手が強かったり、弱かったりと言う運・不運もないとは限りません。打ち負けていると言う印象を審査員に与えることは、マイナスですが多少打たれたからと言って、焦ってジタバタと打ち込んでいっては、評価は落ちるばかりです。
 打れても堂堂とした態度で、ともかく相手を崩して打つ、と言うどっしりした心構えを忘れないことです。

剣道を知る その87 昇段審査会合格の鍵⑦ ☆ 五 段 編 ☆

昇段審査会合格の鍵⑧
☆ 五 段 編 ☆

 初段を取ってから、最低でも拾年は足っている訳です。五段は、都道府県審査の最後の段位であり、謂ば、それぞれの剣道連盟が与える全国区への切符です。
 求められる条件も、『気品』『風格』『気位』は勿論のこと、『理合いにあった打突』『指導者及び審判員としての能力』など四段よりもさらに、抽象的で精神的なもの、一つ一つの技よりも総合的な実力を問うものになってきます。これが五段の合格基準です。
 理合いに合った打突といっても、一口に説明出来るものでは有りません。たとえば、佐藤忠三先生の『剣道の学び方』の中に、「剣道修練の基礎的理合い」という章が有りますが、その項目には次の事柄が書いて有ります。準備運動、着座、起座、姿勢、足の踏み方、手の位置と竹刀の握り方、目付け、発声、間合い、先、打突すべき機会、残心、気合い、勘、色付けの事、心のはたらき、四戒、平常心、不動心、明鏡止水、無念無想、心気力一致、懸待一致、虚実、離勝、位、守破離、などであります。
 つまり、剣道に於ける各要素、一つ一つの働きについて、その意味、何故そうしなければならないか、どうしてそれが正しいのかを知った上での打突が要求されるのです。
 今迄の段以上に、剣道に対する深い理解、身体だけでなく頭を使った稽古が求められているのです。
 剣先のきいた攻めが重要なのは四段と同様ですが、気で攻めているかどうか、ここがポイントです。
 一刀流の伝書の中に、「三殺法」の言葉が有りますが、刀や技を殺すだけでなく、気をも殺すことが大切です。

剣道を知る その88 昇段審査会合格の鍵⑧ 剣道段位審査会実技稽古の纏め

昇段審査会合格の鍵
剣道段位審査会実技稽古の纏め
初段から三段までの場合
 着装
面紐は四本の長さを揃える(結びめより長さは四〇糎以内)
手拭が面より外に出ないよう。
稽古衣の裾は前より後をやや高目に
稽古衣は背中がふくれないよう。胴の位置を正しく。 

 構え (中段)
竹刀を握ったとき右手を鍔より離さない。
竹刀の先の延長が相手ののどにつき正中線上にあること。
左手は身体より一握り程度はなすこと。
常に左足のかかとは床につけない
右手の親指は相手の右眼に、一指し指は相手の左眼に、左手の親指は相手のへそに突きさす気概をもって
 ↓
 間合
常に竹刀の先がわずかに触れる程度(お互いに中ゆわいよりは決してはいらない)(近よらない。一足一刀の間を保つ)
上下左右に動かさない。
自分の打間で打突する。
 ↓
 攻め
中心を攻める。
充実した気勢。決して後へ退らない。
 ↓
 理合
打突の好機・四戒など考えて
竹刀でなく刀で行っている考えで行う。
 ↓
 打突
(
ここが中心) 充分に考えて。さばきの動作を大切に。
刃筋が正しいこと。強弱・さえ・速度(緩急)をポイントに
必ず竹刀の打突部があたること。
 ↓
 残心
体勢及び爾後に対する気勢。
打突後のまとめ。

剣道を知る その89 上段について① 構えについて

上段について①
構えについて
 剣道においては構えということが、非常に重大な位置を占めています。
 構えには心構え、身構えがありますが、心構えは心の持ち様を言っているため、表現も抽象的になりがちでなかなか解りづらく、修行の過程において、それぞれが良く工夫をしながら、体得して行かなければなりません。
 一方の身構えは、自然体での提刀、帯刀、蹲踞の構えから、いざ竹刀を持って、如何に相手と対峙するか、言い換えれば、形を整えて、相手からの働きかけ(攻撃)に対処し得る様、十分な用意をすることと、自らが攻撃をするために、姿勢を整える二つの要素から成っています。
 宮本武蔵は五輪の書の中で、上段、中段、下段、右脇、左脇の五つの構えを示し、最善の構えは、結局、中段に帰するとして大将の位、ともいっておりますが、それぞれの状況において、柔軟に構えを使い分ける事も、必要としています。
 また、いずれの構えであっても、構えると思わずに、切ることと思え、とも諭しており、剣道において上段をとる場合の心構えとして、この「切ることと思え」は、とても重要な事です。
 上段の構えは、「名人の位」ともされ、相手の攻めに対しても動じない気位で、臍下丹田に力を込め、相手をのみこんで圧倒し、頭上より見おろした気持ちで構えなければなりません。
 別称を、「天の構え」とも「火の構え」ともいい、すなわち、相手を焼き尽くすような、強い攻撃的な構えなのです。

剣道を知る その90 上段について② 上段の構え方

上段について②
上段の構え方

 剣道では、中段の構えが常に基本です。上段をとる場合においても、先ず正しい中段に構えてからの話です。
 正しい中段とは、足の踏みようとして、両足の爪先を真っ直ぐ前方に向け、両足の左右の幅は、ほぼ中に足が一つはいる程度とし、その前後の位置は、右足の踵を左足爪先の線上に出し、踵から踵まで一足長ないし一足長半とします。左足の踵は自然にあげ、右足の踵は軽く踏みます。身体の重心は、やや前かがりに両足の中心にかけ、両膝は自然に曲げて、踏み切りやすい様にします。この時身体は右自然体になります。剣先は、相手の咽喉につけ、目は、相手の目に注ぎながら、体の全体を見ます。臍下丹田に力を入れ、首筋を伸ばし、肩に力を入れず、腰を入れて安定させます。
 一般的な諸手左上段(どちらの足が前に出ているかで、左上段・右上段と言います。諸手は言うまでもなく両手で竹刀を握っていることです。)は、中段の構えから、相手の攻めを注意しつつ、左足を前に踏み出し、手の内を変えずに、竹刀を頭上にあげます。体はこの時、やや左自然体になり、右足の踵を自然にあげ、左足の踵は軽く踏みます。左自然体のためやや左半身になり、右足の爪先は多少、外側を向きますが、あまり開きすぎては、踏み込みに影響が出ますので、注意します。
 中段から、上段に構える時は、相手の咽喉に附けている剣先が外れ、また、踏み込む場合の踏み足が、左足から右足に変化する過程ですので、中段での防ぎの体勢が崩れ、相手に対し隙を与える事になりますので、十分に間合いを切って、一気に構えなければなりません。
 また、上段を取るときに、相手の攻めとか間合いの関係で、右足を下げながら竹刀を上げる選手を見かけますが、上段を取る理法に叶いません。逆に、相手に上段を構えさせたくないと思ったら、間合いを詰めて、小手元が上がれば、すぐに打突をするぞ、といった剣先の動き、気構えをすると、相手はなかなか上段をとることが出来ません。
 左拳は、額の前上約一握りの所で、なおかつ、左足爪先の垂直線上に位置します。竹刀は刃部を前向きとして、後ろ後方約四十五度に傾け、剣先は中段同様、正中線上に来るべきですが、左半身のため、僅か右に寄るのがより自然で、このため、竹刀を約十五度右に傾けます。
 上段に構えるのが、安易に試合に勝つためという風潮があり、全日本選手権級の大会でも、立派な上段、いい上段、品のある上段を見る機会が少ないのは、上段をはじめから、正しく指導する先生が少く、勝手に構えて、初めから終わりまで、上段ばかりの稽古をしてきたのではないかとも思われます。試合でたまたま勝てたのは、相手が上段に対して、どう戦うか知らなかった、あるいは、相手に上段に対する備えがなかったから勝負に勝てた、と言うのが実状ではないでしょうか。
 剣道は、一つの芸ですので、構え、動きにたいして、品が要求されます。「雅(みやび)」と言っても良いでしょう。能の世界では「幽玄」といっています。西洋では「エレガント」と言います。品位の基本は、姿勢、構えですので、先ず癖のない、正しい上段の構えを身につけてください。

剣道を知る その91 上段について③ 竹刀の握り方

上段について③
竹刀の握り方

 竹刀を握る左手は、小指を柄頭いっぱいにかけて、上から握り、小指、薬指を絞め、中指は絞めず弛めず、人差し指、親指は軽く浮ける心持ちで添えるようにするのが基本です。
 小指については、柄頭に半分だけかける方法、小指を柄頭から外してしまい、柄頭を包み込むようにして握る方法もあります。
 上段の場合、間合いを盗み、遠間からの打突を行うときには、この持ち方が有効です。ただし、小指での絞める力が無くなりますので、打突の後、手首が死なないように、中指、薬指をしっかり絞めなくてはなりません。
 右手は、中段と同じく、薬指、小指を絞め、両手とも人差し指と、親指の分かれ目が、竹刀の弦の延長線上にくるようにします。特に上段の場合は、両手を上にあげる関係から、横から持ちやすくなってしまいますので、注意をします。
 両手首を軽く、常に内側に絞めておく心がけが肝要です。両肘は張り過ぎず、窄め過ぎず、伸ばし過ぎず、ゆったりと、力をいれないで、相手を見おろすような気持ちで、おもむろに、大に構えます。この時、心の中で「参れ」と呟きます。

剣道を知る その92 上段について④ 構えて攻める

上段について④
構えて攻める

 大きく上段に構えたならば、「どこからでも参れ」、「突くならついて見ろ」という気持ちで相手を見据え、攻撃の一撃にかけます。
 常に、攻めて攻めて、攻め抜く攻撃一辺倒がそもそも上段に上げたときの心構えで、中段の場合の様に、攻防一致、攻防の妙は有りません。中段の場合は、攻める間合い、守る間合いを考え、攻めて良し守って良しの、いわゆる攻防一体の駆け引きを行いますが、上段をとった場合は、ここぞと言うときの一撃に全てを賭けるわけです。
 上段に構えたときは、基本的には間合いの攻防はありません。間合いを詰めることがあるだけです。従って、間合いを下がって切る様なことをするのであれば、その人は上段をとる資格がありません。下がったときは負けです。絶対下がってはいけません。
 相手が出てきたら、心得たとばかにりに、その相手の出に乗って相手を断ち切る、激しい気構えと攻めを、崩してはいけません。紙一重で勝負を決めるのです。最悪でも相打ちになれば十分、また、一つ打ったら後が無いと心得てください。危なくなったら逃げるのは言語道断です。もう一度書きますが、下がったときは負けです。
 しかし、どうしても下がらなくてはならない状況も、当然出てきます。この時は、直ぐに、中段の構えに戻してから、間合いを切るべきです。
 上段を遣うには、強気でなければなりません。相手に対して絶対の優位を誇ることです。攻めて、追って、詰めて、相手を圧倒し、試合であれば試合場の外にまで、道場であれば壁際まで、追いつめて行く、これが全てを焼き尽くす「火の構え」です。
 自分の身を守るよりも、自分の体、すなわち、左右の小手、胴、さらには突きを全てさらけ出して、身を捨てて打ち下ろす、激しい打突一本だけの構えなので、上段を取るには、勇気が必要です。
 上段は、攻めているときは強さを発揮できますが、守りに備える構えではありません。どんな強い攻めに対しても動じない強い気勢、勇気が必要になってきます。

剣道を知る その93 上段について⑤ 上段の間合いについて

上段について⑤
上段の間合いについて

 間合いは、自分と相手の空間的距離を言います。(時間的距離は「間」と表現します。)
 一番良いのは、自分からは打ちやすく、相手には打ちにくい間合いですが、なかなかその様な、自分からは近く、相手からは遠くなるような、一見不条理のことは成し遂げられません。
 宮本武蔵の兵法三十五箇条にも、間積もりの事として、「大形は我太刀、人にあたる程の時は、人の太刀も我にあたらんと思ふべし」書いてあるように、物理的な距離的は、実際には余り差が無いのではないかと筆者は思っています。むしろ、間合いが詰まったときの、一瞬の「間」、つまり打突のチャンスを能く掴むことが重要です。
 中段での自分の間合いについては、それぞれが研究し、実践してきているわけですので、此処では、上段を取った場合の間合いの取り方について、多少触れてみることとします。
 中段の構え同士の場合では、竹刀の先皮が触れ合う所で、攻防を行い、此処からどの様に相手の竹刀を殺し、中心を取り、取られたら取り返し、間合いを詰めて打突するかがキーポイントです。言葉を換えれば「間合い」から「間」の攻防へ移る時こそが、時間的、距離的に先を取る重要な機会です。
 上段の場合は、初めから竹刀を上げているわけですから、約半歩ほど、間合いが近くなっていると考えて良いでしょう。剣道ではよく「一足一刀の間合い」と言いますが、上段の場合、「半足一刀」の間合いが、相手にとって「一足一刀の間合い」となります。従って、相手の動作が先で、打ってきたところを、面に乗る様な場合、左足は、その場を踏む程度で良いと思います。丁度、相中段で、出小手を押さえる時の調子です。
 竹刀と竹刀が交わっていないわけですので、自分の「半足一刀の間合い」は普段の稽古で、十分に掴んでおく必要があります。
 上段の剣先が大きく半円を描いて、背筋を伸ばし、片手技で、相手の右小手にそのままで届く距離が理想です。柳生宗矩「兵法家伝書」によると、相手の間合いを計るには、「水月、つけたり、その影のこと」といって、月がその影を水に写す例えで、相手の背丈を影として前に写し、その分だけ間合いが有れば、なかなかわが身までは当たらないもの、と言っています。
 打つときは、この水月の尺の中に位をぬすんで近づきます。心の中に水月の場を、立ち会い以前から考えておけとしています。

剣道を知る その94 上段について⑥ 足捌きについて

上段について⑥
足捌きについて

 剣道の足捌きは、歩み足、送り足、開き足、継ぎ足があります。
 剣道で、素早い力のある打突をするために一足一刀の間合いから技を出すときには、送り足が使われます。送り足で重要なことは、出した足の分、直ぐに後足を引きつけることです。武蔵は「片足ふむ事有るべからず」といって、片足だけを出してそこで止まっていてはいけないとしています。
 諸手左上段の場合は、左足前ですので、左足を摺り足で前に送った後、直ぐに右足をこれも摺り足で詰めます。後足が跳ね上がることは最も嫌われます。氷上を滑るように、さっと出します。送り込む方の後ろ足が、遅かったり、残ったりしないように、素早く引きつけることです。
 体を捌くときは、開き足を使います。左に捌く時は、左足を左斜め前に出し、右足を後方に引きつけ、右を向くようにして相手に正対し、技を出すものです。体の移動はまず左斜めに行ってから、次は右斜めとなりますので、この方向転換をスムーズに且つ一瞬に行わなくては成りません。普段の練習が肝心です。
 上段の場合、左片手技が一般的ですが、場合によっては、右片手技を使うこともあります。相手が、左小手を打ってきた場合、その左手を竹刀から外し、体を右に捌いて、右手片手で相手の正面を打ったり、相手の右胴(逆胴)を打つときなど、右に捌く事も研究してください。
 どの足捌きの場合でも、後ろ足の踵が、床についてはいけません。特に下がるときに注意します。剣道でアキレス腱を切るのは、大抵、下がったときに、後ろ足の踵が床についていて、無理な力が加わったときです。事故を起こさないためにも、後退の際に、後ろ足の踵は床につけないようにしましょう。

剣道を知る その95 稽古

稽古
 稽古ということばは、「古(いにしえ)を稽(かんが)える」という意味で、鎌倉時代から室町時代にかけて武術や芸能の修行をさすことばとして用いられてきた。
 「稽古」の意味は、芸の実力を養成するために日々事(わざ)を研くことの必要性を説いたもので、近世武術論でいわれる「稽古」の意味も、この意味で使われている。
 したがって、稽古ということばは、芸に対する「心構え」が大切になり、修行の過程はそのままその人の「生き方」ともつながり、芸と生き方とを一体化させる重要な要素なのである。
 単なる動作の反復繰り返しや、運動の量的な増減を示す「練習」とは違う意味をもった、運動の質を問い続ける重要なことばなのである。
 日々何気なしに「稽古」ということばを使っているが、そこでは「練習」とは違う、「稽古」本来の意味をかみしめながら使っている。

剣道を知る その96 稽古法

稽古法
 「打ち込み稽古」「切り返し」「掛かり稽古」「引き立て稽古」「互格稽古」「試合稽古」の六つの方法は、竹刀打ち稽古法がはじまったころから順次発生した稽古法で、昭和初期にはほぼ固まった仕方となったものである。
 なお、この六つの稽古法を「地稽古」と総称するいい方もある。「地稽古」とは、もとは軍隊剣術の「教習試合(剣道の『引き立て稽古』に相当)のみをさすことばとして明治末期ころ使われだした。また、軍隊剣術は室内はまったく想定しておらず、大地の上での稽古、あるいは下地をつくる稽古という意味から、地の稽古・地稽古と呼ぶようになり、これが一般剣道に転用されたとき、「打ち込み稽古」から「試合稽古」までを含めた六種類の稽古法の総称となったのである。
 ところが、それが次第に「切り返し」や「引き立て稽古」、さらに「試合稽古」が外され、だんだんと「地稽古」の中心が「互格稽古」一本に絞られてくると、いつしか「地稽古=互格稽古」となり、今日では両者をほとんど同じ意味に混用している人もいる。
 しかし、本来は「地稽古」の方が広い意味をもったことばであったことを念頭においておく必要がある。
○打ち込み稽古
  打ち込み稽古は、もともと「撃ち込み稽古」と書き、今日いうところの「切り返し」「掛かり稽古」を併せもったものである。これが明治末年ころに、まず「切り返し」が分離し、さらに大正末年ころに、「掛かり稽古」が分かれて、三者は別々の運動形態をもつにいたったのである。
○切り返し
  切り返しにはいろいろな方法があり、その場で左右面を打つ「その場切り返し」、前進しながら左右面を打つ「前進切り返し」、後退しながら左右面を打つ「後退切り返し」、相手と交互に行う「左右交互に切り返し」、「撃ち込み体当たり切り返し」などがあった。
○掛かり稽古
  打ち込み稽古より少し進んだ稽古法で、間合や隙、当たりというものを考慮し、自分から打ってかかる稽古法のことである。
○引き立て稽古
  教師(高段者)が生徒(初心者)技を伸ばすために行う稽古法で、正しい刃筋を会得するために行うものである。
○互格稽古
  「互角」という語があるが、剣道では、技量の「格」が同じ者同士という意味で、「互格」という語をあえて使っているようである。そして、互格の気位を以って対等に稽古するものと定義づけられた。
○試合稽古
  地稽古の中で行われている試合稽古は、自己審判法で行う場合がほとんどである。
○特別な稽古法
  特別な稽古法として寒稽古・書中(土用)稽古・立切り稽古などがある。
  寒稽古は、寒の入りから節分までの30日間、寒苦を忍んで早朝に修行するものである。
  書中(土用)稽古は、小暑から立秋までの盛夏に行うもので、ともに精神鍛錬に重きをおいた稽古法である。
  立切り稽古は、山岡鉄舟の春風館道場で行われたもので、朝から夕刻まで、途中わずかの昼食時間の他は一日二百面の立ち切りを行った。最近では、これに倣って半日・一日の立ちきり稽古を行うものもあらわれた。

剣道を知る その97 切り返し(打ち返し)について①

切り返し(打ち返し)について①
切り返し(打ち返し)とは
切り返し(打ち返し)の目的

 切り返しは、正面打ちと連続左右面打ちを組み合わせた剣道の基本的動作の総合的な稽古法であります。
 正しい切返しの稽古の中で剣道の「構え(姿勢)」、「打ち(刃筋や手の内の作用)」、「目付」、「体捌き」、「足さばき」、「間合いのとり方」、「呼吸法」さらに「強靭な体力」や「旺盛な気力」などを養い「気・剣・体一致の打突」の習得をねらいとします。
 初心者も熟練者も必ず行うことが大切である。
 切り返しの稽古を行うことで次のような効果があらわれる。
◎身体の動作が軽妙になり敏捷性を養うことが出来る。
◎身体、手足の力量が増大し筋力の増強に役立つ。
◎自然に呼吸法が身に付き持久力などを養うことが出来る。
◎気力が旺盛になり気剣体一致の打突が可能になる。
◎悪い癖を矯正や予防のため虚勢することが出来る。
◎手の内が良くなり打ち方が上達する。特に左の返しが上手になる。
◎常に正確な打突部位をとらえることにより相手との間合いが見えてくる。
◎稽古の前後に行うことにより準備、整理運動になる。
このような効果があらわれるが、稽古の実施においては全身の気力を込めて行い初心者の場合ゆっくり大きく正確に行い段々と早くすることが大切である。

剣道を知る その98 切り返し(打ち返し)について② 切り返し(打ち返し)の動作

切り返し(打ち返し)について②
切り返し(打ち返し)の動作

 中段の構えから送り足で一足一刀の間合いに進み、大きく振りかぶり右足を踏み込むと同時に正面を打ち、前進しながら4本、(左面、右面、左面、右面) 後退しながら5本(左面、右面、左面、右面、左面) 打ち、さらに後退し間合いを取る。これを1回とし2回繰り返す。最後に正面を打ち相手の向う側に抜け、振り向いて残心をしっかりとる。
動作の中で大切なことは、
◎姿勢、構え、竹刀の握り方など注意しながら行う。
◎初心者の場合特に動作を大きく正確に行い速いことをのぞまずゆっくりと確実に行う。
◎肩の力を抜いて左右均等な打ちになるようにし角度は45度くらいになるようにおこなう。
◎常に正しい足さばき(送り足)に注意し特に後退のとき歩み足にならないようにする。
◎振りかぶった左こぶしは必ず頭上とし打ちおろした左こぶしはみずおちとすること。
◎左こぶしは常に正中線上を移動する打ち方を心がけること。
◎息のつなぎ方は、息を吸って正面を打った後、息を吸って左右面を打ち最後の正面を打った後、息をつないで残心をとる。
 しかし小学生など肺活量の少ない者は左右面の途中1回、最後の正面打ちの前に息をつないで常に大きな声が出るようにしたほうがよい場合もある。
 熟練するにしたがって、旺盛な気迫を持って息の続く限り一息で、体勢を崩すことなく連続左右面を打つようにすることが大切である。
 竹刀の打突部で正確に打突部位 (竹刀ではなく相手の左右面) を正しくとらえること。
 特に正面への打突は一足一刀の間合いから正確に打つことを心がけること。
 打ち返しは稽古の前後に行うように習慣付けること。

剣道を知る その99 切り返し(打ち返し)について③ ◇切返しの得◇

切り返し(打ち返し)について③
◇切返しの得◇

 ◎姿勢がよくなる。
 ◎業が烈しくなる。
 ◎息が長くなる。
 ◎打ちが強く確実になる。
 ◎肩の関節が柔軟になる。
 ◎手の内の冴えが出てくる。
 ◎腕の働きが自由自在となる。
 ◎体が軽く自在となる。
 ◎長い太刀が自由に使えるようになる。
 ◎体勢が崩れないようになる。
 ◎目が明らかになる。
 ◎業が速くなる。
 ◎足捌きがよくなる。
 ◎心が静かになる。
 ◎打ち間が明らかになる。
 ◎太刀すじが正しくなる。
 ◎遠間から打ち込めるようになる。
 ◎気分が強くなる。
 ◎腕が丈夫になる。
 ◎体が丈夫になる。
 なお、このほかにもあろうかと思いますが、業が思うように出なくなった時とか、試合に自信を失った時とか、気分の乗らぬ時とかは、此の切返しが最も有効であります。

剣道を知る その100 切り返し(打ち返し)について④ 切り返し(打ち返し)の受け方

切り返し(打ち返し)について④
切り返し(打ち返し)の受け方

 切返しを受けるものは、間合いの取り方、応じる太刀の力の入れ方等、相手の力量の程度に応じて適当に加減し、相手の気分を引き出し、工合よく受けてやる工夫をせねばなりません。
 中段の構えから、剣先を右にわずかに開き正面を打たせる。ただちに連続左右面を歩み足で後退、前進しながら打たせ、打ち終わったら双方が中段の構えになるように間合いを充分にとって、ただちに剣先を開いて次の正面を打たせる。
【動作の中で大切なこと】
◎相手が初心者の場合
 竹刀を垂直に立て、左こぶしを体の中心から左、(右)に寄せ相手の左右面打ちを引き込むようにして受ける。
◎相手の技量が上達者の場合
 左こぶしを中心からはずさず、相手の左右面打ちを迎えて打ち落とすようにして受ける。
 左右面打ちは 歩み足 で受けること。
 左右面打ちを受ける場合左のこぶしは腰の高さ、右のこぶしはほぼ乳の高さにし、両こぶしが上がり過ぎないようにすること。
 気を入れて合気となり、大きな掛け声を掛けて相手を引き立てるようにすること。
 最後の正面打ちを特に正確に打たせるようにすること。
 習熟の程度に応じて 「引き込む受け方」「打ち落とす受け方」 を適宜用いて習熟の効果の向上を目指す。
 正面を打たせた後の残心を正しく取るようにすること。

剣道を知る その101 切り返し(打ち返し)について⑤

切り返し(打ち返し)について⑤
◇切返し受けの得◇

 ◎姿勢がよくなる。
 ◎身体軽捷自在となる。
 ◎目が明らかになる。
 ◎敵の太刀すじが明らかになる。
 ◎間合いが明らかになる。
 ◎応じ方が明らかになる。
 ◎手の内しまり、冴える。
 ◎心静かに落ち着きを生じる。
其の他微細に考えれば、これまたいろいろの利益があると思います。この確実な切返しを怠らず継続すると、いつまでも進歩が止まらず、立派な稽古振りになり得るでありましょう。 切返しは確実正確になすことが、肝要で、いたずらに速きを望むと、どうしても打ちが不正確になり、不十分になり、小さくなりがちでありますから、必ず正確にと心掛け、馴れるに従って、速さを加えるということがよいと思います。
☆切返しの留意点として
切返しの注意
 ◎肩の力を抜くこと。
 ◎打った場合、肘を伸ばすこと。
 ◎頭腰等にて調子を取らざること。
 ◎足の間隔、体形を崩さず進退すること。
 ◎平打ち、峰打ちとならざるように注意する事。
 ◎常に物打ちにて敵の斜面を斬撃する心持にて切返すこと。
 ◎十分に振りかぶり、十分に打ち込むこと。

剣道を知る その102 警視庁剣道教本(引用)①

警視庁剣道教本(引用)①
剣道第一基本1

1、 構え(要義)
2、 構えとは、相手に対する攻防の姿勢をいい、時と場所、相手の強弱、武器の種類等により種々異なるが、構えの中枢となるべき、中段、上段、下段、八相、脇構えの五種をもっと基本の構えとする。中段の構えは、諸種の構えの基礎で、常の構えとも称し、平素の練習は主としてこれによるものである。したがって中段の構えは、姿勢正しく、進退攻防応変が自由で、少しのすきもなく、心広く、体ゆたかなるを要する。「教本」では、中段、上段、下段、八相、脇構え、を基本の構えとしています。構えは、構えとして存在しているのではありません。どんな攻め、どんな打突、どんな技を使うのか、と一体として存在しているのです。中段、上段、下段からの打突、技は、一応理解できるとしても八相、脇構えからどんな打突、どんな技があるのか、知る人は少ないと思います。例えば、八相からどんな打突、技が考えられるのでしょうか。左片手面、小手打ち、片手突きがあります。突きは、右上なら左斜め下に、打つように突くことになります。上段に対する平正眼からの突きに似ています。泉先生は、左手(首)を支点に、右手の握りの部分を四本の指(親指を除く)で弓のように引いて構え、右手を離して左片手で打突する、と伝授されています。理に適う打突と言えます。八相は上段に似て「八方破れ」の構えと言えます。相手は、突き、面打ちを考慮することになります。相手の突きは、左足を後ろに引きながら相手の竹刀を切り落し、面を打つことです。面打ちに対しても同じ対応をすることです。先には、右足を踏み出して相手の竹刀を切り落し、面を打つことです。体を瞬時に移動するため、「膝のため(曲がり)」に留意する必要があります。同時に八相に適した間合いをとることです。剣先が交差しないだけに「眼」で間合いを測ることが求められることになります。脇構え。どんな打突、技が考えられるのでしょうか。危機に遭遇し、身を守ろうと必死に棒を振り回す。そんな中に脇構えからの打突、技の「形」を見ることができます。日本剣道形四本目と同じように上段に振り被り切り結ぶことができます。小手を下から切り上げることもできます。体を引いて相手の打ちを上から切り落すこともできます。問題は、どんな構えに対して「脇構え」に構えるか、です。と同時にここでも間合いが勝敗を決することになります。稽古の中で使い、検証することです。

剣道を知る その103 警視庁剣道教本(引用)②

警視庁剣道教本(引用)②
剣道第一基本2

2、体の運用(省略)
3、打突(単一技、連続技)
-要義-
 打突とは、相手を打ち突く動作にして、これを奏功するには充実した気勢と正確な刀法及び適法な姿勢を必須の要件とする。 気勢とは、意思のまさに活動せんとする状態である。すなわち充実した気勢とは鷲鳥の鳥雀を拍つがごときをいう。心 正確な刀法とは、各関節部及び掌中の合理的作用により操作する刀の運用法。適正な姿勢とは、各種打突のときの正しい体勢をいう。したがって打突が気、技、体一致の活動に至るには、正確な課程を遵守し不朽の修練を必要とする。 すなわち第一基本の打突は、まず単一技を課し、次いで連続技に及ぶ。単一な部位を打突するものにして打突の初歩であるが、これらの指導に当たっては、細かな点もおろそかにせず、厳正にすることが必要である。 連続技は、単一技を連続して行なう動作である。この技は、単一技より複雑で、個々の技が不正確になりやすいから、各個の動作に全力をこめ、大きく正しく練習を行なわせる。初心者は迅速よりむしろ正確に技を行い、習熟するのに従って自然に速度を速めるように指導する必要がある。打突には、充実した気勢と正確な刀法と適法な姿勢が必須の要件としています。充実した気勢とは、元気があればいいというものではありません。稽古に裏付けされた確信としてあることを忘れないことです。正確な刀法、特に泉流剣道においては、竹刀は刀であるという認識を持つことです。堀口清先生は、「剣道日記」の中に「(泉先生は)たまたま打たれても構えを崩さず『真剣ではできない技ですよ』との中で訓えているといふ温情を覚えさせられた」と書かれています。「真剣ではできない技」とは、真剣は、そんな使い方はできないし、真剣では、そんな打突はできないということです。相手を叩けばいいというだけの「竹刀剣道」のあり方を戒めてのことと受け止めることです。気、技、体の一致した打突をするには、正確な課程を遵守し不朽の修練を必要とするという指摘は大事です。泉流剣道をめざす者は、まず竹刀を抑えること、抑えを外すことを習い、覚え、使い、磨くことです。決して剣先を外すことなく打ち出さないことです。不朽の修練。正確な課程は、他が準備してくれるかも知れません。しかし、これは、自ら求めるしかないのです。

剣道を知る その104 警視庁剣道教本(引用)③

警視庁剣道教本(引用)③
剣道第二基本1

1、第一基本指導法(省略)
2、構え方(省略)
3、打突(張り技)
-要義-
 張り技は、相手の技に起る頭の刀を張り打突する技である。本技は、相手の刀を強く払いまたは切り落すのではなく、相手が技に起ろうとして掌のうちの握りがゆるんだせつなを掌のうちの冴えで軽く張り、相手の剣先の反れたところを一呼吸で打突するところに妙技があるので、張りの機会と掌のうちの作用が最もたいせつである。張り、竹刀の左右の側面を使うのは、抑えと同じですが、相手の竹刀を自分の竹刀の側面で弾くという違いがあります。相手の竹刀を叩き落とすほどに強く腕を使うのではなく「手のうちの冴えで軽く張る(打つ)」ことです。それゆえに「相手の起こり」を打ち(張り)、ただちに打突することです。「張り」と「打突」を一呼吸、一挙動として行なうよう心掛けることです。「警視庁剣道教本」(以降「教本」と称する)では、次の手順で稽古することを求めています。「左に張り、面の打ち方」-左に張り、面の打ち方とは、相手が打突しようとして技に起る頭の刀を左に張り、頭を打つ動作である。元が機を見て「打て」の動令で少し掌と剣先が起る頭を、習技者は右足をわずかに踏み出し元の刀の物打ちどころを、自分の刀の切先より約10センチ程度の左鎬(表)をもって、掌のうちの冴えで軽くやや斜め前方に張り、すかさず踏み込んで面を打つ。技の稽古の要領として理解することです。「(元に)少し掌と剣先が起る頭」を「相手に一足一刀の間から打ち間に攻め入ってもらい」と読み替え、相手の竹刀を自分の竹刀の左側面で張って(小さく打って)剣先を外し、手首を返して(刃すじを正して)面を打つことです。難しい場合は、竹刀の右側面で平(ひら)に面を打つことです。これは、表からの張り(技)です。「教本」では、表を左、裏を右と表記しています。裏からの張りは、次の点に留意することです。 ~元の刀に添うて剣先を少し左方に下げながらくぐらせ中心を突く心持ちで右鎬(裏)軽く斜め前方に張り、すかさず踏み込んで面を打つ。 泉先生は、抑える場合、表は左手を、裏は右手を主に使う、と指導されていましたが、張りの場合も同じだろうと思います。

剣道を知る その105 警視庁剣道教本(引用)④

警視庁剣道教本(引用)④
剣道第二基本2

3、打突(すり上げ技)
-要義-
すり上げ技は、相手の打ってくる刀をすり上げて打つ技である。本技は、相手の刀を受けまたは払うのではなく、相手の刀勢を体の捌きと鎬の効用とを利用してすり上げ、その鋭鋒を削ぎ、すかさず打つもので、その機会、間合い、体の捌き及び掌の裡の作用が最もたいせつである。「教本」には、1面を左にすり上げ、面を打つ、2面を右にすり上げ、小手を打つ技が収められています。この他には、小手を右にすり上げて、小手を、面を打つ技があります。すり上げ技を使う場合に留意したいことは、竹刀を刀と同じように使うのではなく、刀と同じ機能を果たすように使うことです。左にすり上げる場合は、左手(握り)を左に、右にすり上げる場合は、左手(握り)を右に持って行くことです。さらに機能を高めるために体を心持ち左又は右に出すようにしてすり上げ、体を左、右に戻して打つことです。体の捌き、鎬の効用の読み取りを誤らないことです。
3、打突(抜き技)
-要義-
抜き技は、相手が打ってくるのを体を退き、または披(ひら)いて、その刀を抜きはずし、すかさず打つ技である。本技は、刀を用いず体の捌きをもって相手の刀をはずし、姿勢の崩れるところを打つもので無刀の心構えと、間合いの遠近の見切り及び巧妙な体の運用に熟練することが肝要である。体を引いて相手の竹刀を抜く。抜き方は一様ではありません。中段の構えのまま左足・右足と後ろに引いて抜く。右足だけを引いて抜く。と同時に右足・左足と前に出して面を打つ。右足を前に出して面を打つ。左足を後ろに引いて面を打つことができます。さらには、左手の肘を伸ばし、左の握りの部分で相手の顎を下から突き上げるように振り被って小手打ちを抜き、相手の面を打つ。足は、左、右と後に引く。中段の構えのまま、右足を右に出して相手の小手打ちを抜き、左足を右に引き付けて面を打つ。左手首を支点に、右手の握りの部分を自分の右胸に引き、伸ばして突き、あるいは竹刀を叩いて左面を打つ。又は、右手の握りの部分を左胸に引いて小手打ちを抜き、腕を伸ばして相手の右面を打つ。いずれも「剣道日記」の中にある抜き技です。この他にも下段に抜く技があります。
いつ、どんな時に、どんな技を使うのか。稽古の中で自分のものにすることです。

剣道を知る その106 警視庁剣道教本(引用)⑤

警視庁剣道教本(引用)⑤
剣道第二基本3

3、打突(応じ技)
 -要義-
 応じ技は、相手の打突に応じ間髪をいれず打突する技である。
 本技で最も注意するのは、受け止める気持ちにならないことである。受け止めた後、打突するときは気分は切れ、動作は二段となって応じ技の妙味はない。応ずるや否や電光石火一呼吸に打突できるよう熟練することが肝要である。ここでは、応じ技に関して大事なことが省かれています。力が拮抗している相手の打突に容易に応じることができるのでしょうか。難しいことだと思います。では、秘訣はないのでしょうか。ある、と言えます。「剣道の『応じ技』というものは、相手に打ち出させるように持って行かなくては正確に応じられるものではない。某範士は、『勘』でやると言っていたが、考え方としては情けないことである。面を打ちたい者には、面を打ち出し易い間合いをつけることである。面を打って来ることが分かっていれば、応じ面、応じ胴、応じ小手が無理なくできるのである。その方法には、相手の打ち間に攻め入り、切っ先を開く、下げる、などの工夫が必要である」。泉先生の教えです。言い換えると「攻めて打ちを誘い、応じて打つ」ということになります。孫子の兵法、「勝兵は、勝ちてしかる後に戦いを挑む」ことにつながることだろうと思います。決して忘れないことです。 小手を右に応じて、小手打ち。(この打ち方とは)相手が小手を打ってくるのを体を退いてこれを右に応じ、小手を打つ動作である。応じ方。両手をやや右斜めに伸ばし、右拳はほぼ乳の高さ、その位置は体の中心より少し右方とし、左拳は臍の高さ、その位置は右拳より少し右方とし、刀の右鎬で応じる。そして、その応じたところは、元の中墨をはずれないことが必要である。足の踏み方。左足を左斜めに退き、右足はこれに連れて引くものとする。そしてその踵は浮かし、爪先だけ軽く地につける程度として、応じるや否や一呼吸で踏み込みができるようにすること。右手は体の中心より少し右、左手は右手より少し右に、という手(腕)の使い方に留意することです。この手(腕)の使い方は、泉流の「左手は、右手の下にやる」という使い方と同じです。「応じ技のない剣道は、半分の力で戦っているようなものだ」という指摘は、己れにも向けられた言葉です。

剣道を知る その107 警視庁剣道教本(引用)⑥

警視庁剣道教本(引用)⑥
剣道第二基本4

 3、打突(応じ技)
 面を左に応じ、胴の打ち方。(これは)相手が面に打ってくるのに応じ、踏み込んで胴を打つ動作である。左鎬で左に応じ、右足より右斜めに踏み出すと同時に、刀は左肩の方向より円を描くようにして、矢筈に胴を打つ。応じ方。(これは)出る気持ちで応じることが肝要である。この際両手をやや左斜めに伸ばし、右拳はほぼ肩の高さ、その位置は体の中心より少し左、左拳は乳の高さ、その位置は右拳よりわずかに左方とし刀の左鎬で応じる。そしてその応じるところは、中墨をはずれないことが必要である。相手の面打ちに対して、竹刀の左の側面で応じ、返して右胴を打つ技です。応じる。相手の打ちを待って受け止めることではありません。相手の打ちの方向を変えて「いなす」ことでもありません。すり上げて相手の打ちを失速させることでもありません。相手の打ちを「迎え受けて返す」とでも表現すればいいのでしょうか。大事なことは、体をやや左斜めに出す気持ちで、竹刀の(唾元ちかくではなく)先方で応じ、やや右斜めに出して打つことです。右胴(相手の右の体側)を刃すじを正し(竹刀の右側面で打つ『平打ち』にならないように)、(腕ではなく)手首を使い、打つことです。よく使われる技ですが、正しく使われることは意外に少ないと言えます。一度見直すこと、必要です。面を右に応じ、左胴の打ち方。(これは)相手が面を打ってくるのを右に応じ、左胴を打つ動作である。右足右斜め前に踏み出すと同時に刀の右鎬をもって、打ってくる刀を右に応じ、左足より左斜め後に引くと同時に、刀は右肩の方向より円を描くようにして矢筈に左胴を打つ。 応じ方。左の応じ方と同じ。ただし面に応じるがため右拳は肩と水平程度に上がる。左胴(いわゆる逆胴)の打ち方について留意することです。二刀を前提とする「剣道」では、左胴は、刃先をやや下に、手元がやや上に打つ(切る)ことになります。左に差した柄と小太刀を考慮し、打つ(切る)ことになるからです。(右胴打ちと同じように)刃先を上に、腕をちぢめて打ち抜く打ち方や相手に自分の体の右側面を向けるほど体をひねる打ち方が、剣の理法に適うのか、どうか、検証することです。左胴を打つと同時に左足、右足と引き、正眼に構え、残心を示す。めざしたい「剣道」です。

剣道を知る その108 警視庁剣道教本(引用)⑦

警視庁剣道教本(引用)⑦
剣道第二基本5

3、打突(応じ技)
 突きを左に応じ、喉の突き方。(これは)相手が喉を突いてくるのを左に応じ、踏み込んで喉を突く動作である。(相手の突きに対して)体を退きながら刀刃を右に返し、乗り気味にこれを左に応じ、すかさず踏み込んで(相手の)喉を前突きに突く。応じ方。体を退きながら両手をのばさず、縮めず、中段の構えのまま刀刃を右に返し、乗る気持ちで左に応じるものとする。そしてこの際の掌の裡は、右拳を左に絞り左手の握りは寛めて元のままとし、柄だけ右に返るようにする。体は退きながら気は乗るのであるが、乗る気にとらわれると、体を退く時手を伸ばすようになる。手を伸ばして応ずれば、突くときに一旦退くこととなって動作が遅れる。両手は中段の構えのままで、刀刃を右に返して応じる。日本剣道形の三本目を想起することです。竹刀の左側面で相手の竹刀を上から抑えように応じ、手首を返して正面突きに突くことです。相手の突きを上から抑えるように応じることは、稽古をすれば比較的容易にできることです。しかし、手首を返して前突き(正面突き)に突くことは、決して容易なことではありません。手始めに手首を返し、竹刀の刃を左に向け、平打ちのように突くことです。応じ・突きが一挙動できるようになったら刃すじを正し、正面突きに突くことを覚えることです。さらには、突きから面打ち、面打ちから左右の胴打ちに変化することを習うことです。「教本」の突きには、但し書きはありませんが、表からの表突き又は前突き(正面突き)を想定し、応じています。表からの突きに対しては、日本剣道形七本目、入れ突きに支えて応じることもできます。突きには、裏からの突きもあります。裏からの裏突き又は前突き(正面突き)に対しては、竹刀の刃を左に向け、竹刀の右側面で相手の竹刀を上から抑えるように応じ、手首を返して前突き(正面突き)に突くことです。対応は表突きに対するのと同じです。不意の突きに応じることは至難のことです。しかし、突きに誘うことがで きれば応じることは容易です。「攻めて、打ち(突き)出させて、応じて打つ(突く)」。剣の妙技。ここでも求められています。

剣道を知る その109 警視庁剣道教本(引用)⑧

警視庁剣道教本(引用)⑧
剣道第三基本1

 2、間合い
 -要義-
 間合いとは、彼我相対して構えた距離をいう。そしてこれが遠過ぎるときは、打突が不可能で、近過ぎれば打突が不正確になる。すなわち適当な間合いは、一歩踏み込めば打突ができ、一歩退けば打突を避けられる距離で、これを一足一刀の間合いといい「常の間合い」または単に間合いともいう。なお、一足一刀の間合いに対して「近間」「遠間」の二つがある。近間とは、一足一刀の間合いより近い間合いで、体の運用の未熟な初心者の指導は、この間合いによるがよく、遠間とは、一足一刀の間合いより遠い間合いで、掛かり稽古、試合はこの間合いで思い切って行なうのが効果的である。泉先生は、間合いについて「剣道日記」の中で大変厳しい指摘をされています。「間(ま)の取り方。自分の間ということは、一歩踏み出して面にあたる距離。中段の構えから打ち出して、相手の面にあたる距離を意識して打っているかというと、そうでない者が多い。相手の構えがどうなっているから、自分の剣先が相手の剣のどこまで入らなければ届かないかを知って打っている者があまりいないようだ。遠間の技、近間の技との区別も知らないようだ」(「剣道日記」p38)間合い、「現代剣道」で考慮されないことのひとつと言えます。剣先が相手の唾元に届くほどの間合いから打ち出しています。「竹刀剣道」だからできることだろうと思います。一足一刀の互角の間に構え、剣先を争い、自分の打ち間に攻め入り、打突する。ここに抑え、張り、払い、巻き落し、すり上げ、すり込み、応じ、返し、いなす、という技が、打突が生まれる条件があるのです。泉先生は、こうしたことを熟知された上で「自分の間」「遠間の技」「近間の技」に言及されているのです。間合いは、次の攻め、打ち、突き、に深く関わっています。まずは攻め。攻めとは、自分の間、自分の打ち間に攻め入ることです。表から攻め入るのか、裏から攻め入るのか。回して、表又は裏から攻め入るのか。表から、裏から抑えて攻め入るのか、攻めも色々です。と同時に右、左と「送り足」に攻め入るのか、左、右と「継ぎ足」に、「歩み足」に打ち間に入るのか、幾つもの使い方があります。これらに竹刀の、手の使い方が加わり、攻めは無限に広がることになります。肝心なことは、いつ、どんな攻め方、打ち方、突き方、応じ方をするか、です。意識的な稽古以外にないと言えます。

剣道を知る その110 警視庁剣道教本(引用)⑨

警視庁剣道教本(引用)⑨
剣道第三基本2

 2、間合い
 -要義-
 間合いは、また「我が間」「彼の間」の二つに分けることができる。すなわち我が間とは、自分の剣先より自分の体に至る空間、彼の間とは、相手の剣先よりその体に至る空間を言う。この間は、いわゆる「不敗の間」で、これを破られることがなく、完全に保つときは相手より容易に打突されることはない。しかし以上はいずれも有形の間合いであって、間合いの真の妙諦は、無形の間合いにあることを知らなければならない。たとえば、彼我相対したとき、自分の心境は明鏡止水、一点の曇りがないのに反して、相手の心境は驚恐疑惑の雑念に覆われる場合、形の上においては彼我の距離は等しいが、自分は無念無想の位で気が乗っているため、打突は容易に届くが、相手は気で圧迫され危惧逡巡しての動作であるため、打突は届くことがむずかしい。即ちこれは相手から遠く自分から近い間合いであり、心意の活作用に基づく無形の間合いである。前述の我が間というのも、また心意の作用によるところが多く、この幽玄微妙の活作用に至っては、筆舌のよく教えるところではない。百練千磨の功を積み、以心伝心もって自得するほかはない。ただし、形の上においてもこれが理法は適用されるもので、たとえば、自分は進退軽捷で進出量多く、相手は進退鈍重で進出量が少ないとき、彼我遠間に構えれば自分の打突は届くが、相手の打突は容易に届かない。いわゆる「相手から遠く、自分から近い間合い」となる。即ち遠間の錬擇(択)を肝要とするゆえんである。「間合いの真の妙諦(みょうてい。みょうたい。そのものの存在理由として高く評価できるよさ)は、無形の間合いであることを知らなければならない」という間合い、めざすものです。しかし、有形の間合い、「不敗の間」を極めることなくして「無形の間」に至ることはできません。「突きの泉」「手首の柔らかい泉」「足にこだわる泉」という異名のある泉先生ですが、同時に「間合い」を重視する「間合いの泉」先生でもありました。「間、間合い、打ち間、間の取り方により勝負がつくようである」「打つ間(に)、半歩入る。相手が表より抑える。これが定法だ」「剣道では、打ち間に入ること、打ち間に入られると負ける。入らねば勝てぬ」などなど「剣道日記」に記されています。まず、これらの習得に心を砕くことです。

剣道を知る その111 警視庁剣道教本(引用)⑩

警視庁剣道教本(引用)⑩
剣道第三基本3

 3、打突(起こり技)
 -要義-
 起こりの技とは、相手が技を出そうと起こる頭を打突する技である。起こり頭には有形と無形とがある。有形の起こり頭とは、打突しようとして拳と剣先がわずかに動作に現われたところ。無形の起こりとは、打突しようとする意がきざして、まさに動作に現わすようにするいわゆる発意のところである。およそ剣道は、実を避けて虚を打つことを肝要とする。すなわち彼我相対したとき、相手の剣先がまだ動かず、心意いまだきざさないときは実である。この場合、自分からみだりには打突を加えれば、相手はこれを防ぎまたは反撃を加える。これに反し、相手が打突しようとするとき心意は打つことにとらわれて、その剣に起ろうとして他を顧る余地がない。すなわち虚である。その虚を自分の実をもって打突するもので、起こり技の妙技はここにあって、相手の発意のところ、無形の起こり頭をすかさず打突するもので、発意ところは心意の作用であるから、ただ無念無想、明鏡止水の心境にだけ感応するものである。基本においては有形の起こり頭を打突するが、習技に当たってはこの有形の起こり頭の機会の看破と瞬息の打突に習熟し、漸次心境を進め、不知不識のうちに無形の起こり頭を感応し、この打突を自得することが必要である。相手を見て、打突する。「剣道」においては、あたり前のことです。しかし、「現代剣道」においては、これが特異なことになっています(と感じられます)。その端的な例が、相手の剣先が、自分の突きの部位又は体の中心(中墨という)を差しているにもかかわらず、何もしないで打ち込んでいること(結果的に剣先で体を制されるか、向かい突きを喰らうことになる)です。 剣道において、打突する機会は、大別すれば二つしかないと言えます。一つは、相手の竹刀を殺して打突することであり、後の一つが、相手が打突しようとした瞬間に打ち、突くことです。ここでいう「起こり頭」を打突することです。「教本」では、動きの見える起こり(有形の起こり)を打突することから稽古する、としています。間違いはありません。ただ、留意しなければならないことは相手の動きを待たないことです。相手に待ちを読まれ、返されてしまうからです。大事なことは、攻めて、打ちを誘い、起こりを打つことです。これが、無形の起こりの打突につながることになるのです。

剣道を知る その112 警視庁剣道教本(引用)⑪

警視庁剣道教本(引用)⑪
剣道第三基本4

 3、打突(起こり技)
 -起こり、面の打ち方-
 起こり、面の打ち方とは、相手が面を打とうとして技に起こる頭を打つ動作である。長崎先生は、泉先生の教訓として次の一文を遺されています。「相手に『起こり』の技が使えるようになれば、一人前であり、剣道の醍醐味である。修練し、技ができ、目が肥え、人ができてこなければやれるものではない」。起こりの技が高度な技であることは誰もが知ることです。これは、意識的な稽古なくして習得できることではありません。
「教本」には、この他に二つの起こりの技が収められています。-起こり、小手の打ち方-起こり、小手の打ち方とは、相手が小手を打とうとして起る頭の小手を打つ動作である。-起こり、喉の突き方- 起こり、喉の突き方とは、相手が喉を突こうとして起る頭の喉を突く動作である。起こる頭を乗る気持ちで刀刃を右に返し、すり込むようにして喉を突く。元の突きは前突きとし、起った刀はすり込まれるので、刀刃は左方に向剣先はやや右斜めにはずれる。起こり、喉の突き方は、相手の表からの正面突きを気で感じて、表から表突きに相手の喉を突くものです。攻防一体、相手の突きを竹刀の左の側面(刀の鎬にあたる部分)で抑えて外すと同時に喉を突いています。「教本」には書かれていないことですが、裏からの正面突きに対しては、裏からの裏突きに突くことが考えられます。竹刀の右の側面で相手の突きを抑えて外すと同時に相手の喉を突く。表裏、同時に学ぶことが大事です。「教本」では、起こり技について、千葉周作の一文を引用して解説しています。
 「(起こりの技の理法を)心、意、識の三つで説明して曰く『心とは敵を一体に広く見る処。意見とは斯(し)くせん、箇様せんと思ふ処。識とは悠々見留めその思ふ処をなしたるを云う。故(ゆえ)に向ふを打につは意の処を打つべし。意とは即ち起り頭にてドカドカと起る処なり。然(しか)れどもそのドカドカの処にて此方(このかた)より打ち突きを出せば必ず相打ちになるものなり。依(よ)ってドカと云う処にて打ち突きを出せば勝利疑いなかるべつ』(以下省略)」。

剣道を知る その113 警視庁剣道教本(引用)⑫

警視庁剣道教本(引用)⑫
剣道第三基本5

3、打突(応じ返し技)
-要義-
応じ返し技とは、相手が打ってくるのを体をかわしながら受け流し、体勢の崩れるところをすかさず打つ技である。 本技は、昔の流派には竜尾、右施刀、左転刀等と呼ばれ、打ってくる刀に逆わず、かえってその刀勢を利用して受け流し、体勢の崩れるところを変化して打つところに妙味がある。体のかわし方、刀の受け流し方に工夫を要する。即ち足の運び方はすなおに、掌の裡の作用が柔軟でなければならない。「教本」には、1面を右に応じ返し、面の打ち、2小手を右に応じ返し、面の打ち方、3小手を右に応じ返し、小手の打ち方の三つの技が収められています。大事なことは、相手の打ちを受け流すことです。日本剣道形四本目、仕太刀の受け流し、を想定することです。しかし、手首を使わない(手首の使えない)現代剣道人にとって、この技の習得は、容易なことではありません。手立てが必要です。打ち間に攻め入る。相手が表から竹刀を抑える。相手の抑えに逆らわず、左の握りが上、右の握りが下に来るように左手をやや左前に出して受け流す。振り被り相手の面を打つ。この稽古をすることです。特に左の握り(手)の使い方に留意することです。手(握り)の使い方ができたら左足を左前に出して受け流す稽古に移ることです。-面を右に応じ返し、面の打ち方-
(これは)相手が面に打ってくるのを、体をかわしながら右に受け流し、すかさず面を打つ動作である。左足を左斜めに踏み出し、体をかわしながら左拳を高く頭上に上げるようにし右手の握りをゆるめ、剣先を右下にして旋回しながら、打ってくる刀を右鎬で受け流し、右足を左足の後ろに正しく踏むと同時に相手の面を打つ。
2小手を右に応じ返し、面の打ち方3小手を右に応じ返し、小手の打ち方も要領は同じです。ただ、上げる左の握りの位置は、面打ちを受け流す時よりやや低めに来ることになります。相手の打ちを受け流さず、受け止めてしまうと(手首の)返しが難しくなります。相手の打ちを待つのではなく、攻めて、打ちを誘い、受け流し、返して打つことです。高校生に約10か月間、この技の稽古をして貰っていますが、なかなかできない技の一つです。手の使い方に問題があってのことです。

剣道を知る その114 警視庁剣道教本(引用)⑬

警視庁剣道教本(引用)⑬
剣道第三基本6

3、打突(切り落し技)
-要義-
切り落し技とは、相手が打突してくる刀を切り落すと同時に打突する技である。本技の妙技は一心一刀にあり、切り落しと打突を一呼吸で、縁が切れないように動作すること。そしてこれは、石火の位または間髪を入れずとも云う。習技にあたったは、この意味を体得し、動作を軽快迅速にできるように練習することはもちろん、特に気持ちの縁を切らないように、切り落しから打突まで、一呼吸、一拍子で動作することが肝要である。現代剣道が忘れている技の一つに「切り落し」があります。同時に違えている技の一つとも言えます。中高校生に「小手相打ち・面」という打ち方を指導されていますが、あれは「小手切り落し・面」を違えてのことだと思います。「剣道」には、気概としてはありますが、切られることを前提にした技はありません。「打つこと」ではなく、「切ること」を前提とした「剣道」は、「切り落し」なくして成り立たないと言えます。「剣道」を求める者、「切り落し」に熟達する必要があります。「教本」には、1小手を切り落し、面の打ち方、2胴を切り落し、面打ち、の二つの技が収められています。この他に、面打ちを切り落す、突きを切り落す技も考えられます。最も効果的な技を選択して使うことが大事です。-小手を切り落し、面の打ち方-(これは)小手を打ってくる刀を切り落すと同時に、面を打つ動作である。小手打ちに対して、気あたりの気持ちで相手の刀の中ごろを、物打ちどころで斜め右に切り落すと同時に、踏み込みながら刀を半ば振り上げ相手の面を打つ。 竹刀で切り落す時は、右手首を支点に左手首を使い、小さく切り落すことです。日本剣道形二本目、打太刀の刀(木刀)の使い方のように剣先が、手元よりやや下に行くように切り落すことです。又、「切り落し」と「面打ち」が、「小手(相打ち)・面」打ちに見間違えるほどに連続して(縁を切らない)打つことです。一心一刀は、一刀流の起源とも言われています。(右)胴打ちを切り落す場合は、左足を左斜めに引きながら切り落すと同時に右足から踏み込んで面を打つことです。要領は、「小手」と同じです。鍔競り合いからの胴打ちに対しても「切り落し」は有効です。この場合は、剣先で床を打つほどに深く切り落すことです。

剣道を知る その115 警視庁剣道教本(引用)⑭

警視庁剣道教本(引用)⑭
剣道第三基本7

3、打突(巻き落し技)
-要義-
 巻き落し技とは、相手が打突してくる刀を巻き落して打突する技である。本技は、打突してくる刀を軽く応じ気味にして、神速(迅速)に変化し、一呼吸に巻き落すもので、この技に習熟すれば相手の刀を完全に巻き落しまたは体を崩し、剣勢を殺いて容易に打突することができる。この技が巧妙にできるには、相当の熟練を要し、特に機会と掌の裡の作用、体と足の捌き、腰のしめ方に特段の関心を必要とする。「相当の熟練を要(する)」のが「巻き落し技」です。長崎先生も「泉先生覚え書き」の中に「竹刀を巻き落すのは、大事中の大事である」と書き遺しています。「教本」には、1面を左に巻き落し、面の打ち方、2突きを左に巻き落し、喉の突き方の二つの技が収められています。-面を左に巻き落し、面の打ち方-(これは)面を打ってくる刀を巻き落し、すかさず面を打つ動作である。(相手が面を打ってきたら)左足を少し後に引き、右足をこれに引き寄せながら物打ちどころの左鎬で、打ってくる刀の中ごろを左斜めに軽く応じ気味にして、右足を踏み込みながら、刀のつば元にすり込む心持ちで、左より右へ円を描くようにして巻き落し踏み込み、(相手の)面を打つ。(注)1足の踏み方。左足を退き、右足を引き寄せたときは踵は上げ爪先だけ地につく程度として、そのまま縁のの切れないように踏み出すこと。2応じ方。応ずるときの両手は、正しい中段の構えのまま前上に伸ばすようにする。文章としては、新に解説を付け加える必要はないように思います。しかし、実際に技として使うとなると容易ではありません。しかし、私たちには、「映像としての秘伝書」があります。「ビデオ・剣道日記」には、面打ち、小手打ち、突きに対する巻き落し技が収められています。泉先生は、特に左手首の使い方について、文章ではなかなか理解できないことを分析的な映像として残してくれています。現代剣道にとっては、大変な遺産と言えるものです。「大事中の大事」な技、「巻き落し」を習得するには、大変な努力を要することになります。手順が必要です。まずは、相手に中段に構えてもらい、自分は、中段の平正眼に構え、手首を返して相手の竹刀を巻き落すことから稽古することです。

剣道を知る その116 警視庁剣道教本(引用)⑮

警視庁剣道教本(引用)⑮
剣道第三基本8

3、打突(巻き落し技)
-突きを左に巻き落し、喉の突き方-
 (これは)突いてくる刀を巻き落し、すかさず喉を突く動作である。(相手の突きを)少し後退し物打ちどころの左鎬で、突いてくる刀を左斜めに応じ気味にし、右足を踏み込みながら、左より右へ円を描くようにして巻き落し、踏み込んで(相手の)喉を突く。相手の突きを左足から引きながら竹刀の左側面で支える。瞬時に右足から踏み込み、手首を返して相手の竹刀を巻き落す。手首を正して突きを突く。分析的に説明するとこんな手順になります。これを一挙に行なうのが、巻き落し技の妙技なのかも知れません。面打ち巻き落し、突き巻き落し、「教本」には、収められていませんが、小手打ち巻き落しも前の手順で稽古することです。面を打って貰い、竹刀の左側面で支える。特に右手首を支点に、左手首を左斜め前に出することです。突きを突いて貰い、竹刀で支える。小手も同じです。面打ち、突き、小手打ち、と手元の位置は、それぞれに応じて上下に変化することになります。左手(拳)で右手(二の腕)の下を叩くように手首を返して巻き落すことです。剣先の左側面で右斜め前の空間を叩くように巻き落すことが肝要です。面を打つ。手首を正して打つ。手首の返しが難しい場合は、竹刀の右側面で平打ちに打つことです。突きの場合も平に突くことです。流れるように打ち、突くことができたら手首を正して打ち、突くことです。「教本」に収められていない巻き落し技に「小手打ちを右に巻き落し、面の打ち方」があります。「ビデオ・剣道日記」に収められている技です。剣先を下から回し、竹刀の右側面で相手の竹刀を巻き落し、手首を正して面を打つものです。裏から抑える場合は、竹刀を平面的に使いますが、巻き落しの場合は、円を描くように使うことになります。表と裏、技を表裏一体として捉え、使うことです。

剣道を知る その117 警視庁剣道教本(引用)⑯

警視庁剣道教本(引用)⑯
剣道第三基本9

3、打突(離れ際の技)
-要義-
離れ際の技とは、つば競り合いの場合、離れ際に打つ技である。すなわち、つば競り合いは、間が近接したため空しく離れ、またはそのまま接近している時は、相手に乗ぜられる危険がある。離れ際には、必ず相手の虚隙を打って退くか、相手に技を出させないように刀を押さえて退くものとする。そして本技は、その進退駆け引きに神速を期し、また密接不離の関係にあるつば競り合いと合わせて会得することが肝要である。-離れ際、面の打ち方-(これは)つば競り合いの場合、相手の虚隙に乗じ、離れ際に面を打つ動作である。つば競り合いとなった後、機を見てつば元で相手のつぎ元を軽く押す。相手が押し返す。すかさず退きながら相手の面を打つ。-離れ際、小手の打ち方-(これは)つば競り合いの場合、相手の虚隙に乗じ、離れ際に小手を打つ動作である。つば競り合いになった後、機を見てつば元で相手のつば元を斜め左方に軽く押す。相手が押し返す。すかさず左斜め左方に退きながら小手を打つ。(注)間合いが近いため、足の踏み方が不正となって体がねじれ、左舷は上がって平打ちとなりやすい。-離れ際、胴の打ち方-(これは)つば競り合いの場合、相手の虚隙に乗じ、離れ際に胴を打つ動作である。つば競り合いになった後、機を見てつば元で相手のつば元を軽く下方に押す。相手が押し返す。すかさず退きながら相手の胴を打つ。(注)上体が前Oとなる。打つ部位にだけ着目し、腰が引けるOOOがある。着眼は相手の目とし、踏み切りを正しく、ことに後退に際して左足を踏みつけないようにする。※Oは、判読不能文字。つば競り合いからの「離れ際の技」は、いずれも相手を押し、相手が押し返す力を利用して打つもの、としています。現代剣道、特に小中学生の稽古においては、意識的に隙をつくり、打つことを稽古していますが、押して、押し返す相手の力を利用して打つこと、を指導することです。泉流では、自ら相手の隙をつくり、打つこと、を技としています。「剣道日記(解説)」を読み込むことです。

剣道を知る その118 気剣体一致について

・・・気剣体一致について・・・
気剣体一致とは気合、体捌き、竹刀の動きの三つが常に一緒になって打突しなければならないのであって、一つでも欠けると有効打突にはなりません。気とは意志や心の働きを言い、充実した気勢や大きな声を出し気持ちを集中させての決断力を言いいます。剣とは刃筋の通った正しい竹刀操作、竹刀の働く作用を指します。体とは正しい体さばき、体勢のことで正しく踏み込んで打つことを指します。相手を打とうと思ってその場で気合いを入れて確実に打ったとしても、踏み込むときの体の体勢が悪ければ有効打突とはなりません。また、気合いを掛けて踏み込んで打っても竹刀の働きが悪ければ有効打突にはなりません。打つ気がなかったが竹刀を振ったら当たったという場合でも気の働きが欠けているので同じく有効打突にはなりません。従って、打突するときには常に気剣体の三つが同時に作用するように心がけなければなりません。

剣道を知る その119 かぎ足について

・・・かぎ足について・・・
かぎ足は剣道の打突に障害があるばかりでなく、膝を痛め腰を悪くする原因になる。これを矯正するには、「左膝で相手を攻める」と思えば足全体が相手の方向を向き、かぎ足は自然に矯正される。右手打ち人間はたいてい右利きであり、剣道も右手で打ちたがるものである。但し、剣道では左手をもと手、右手を副え手というくらい左手で打つのが原則であり、右手打ちは技も決まらず上達もしない。従って、右手打ちはどうしても矯正しなければならない。その方法として、剣先で打つ気持ちよりも鍔もとで打つようにという教えがある。鍔もとで打とうとすれば踏み込みも大きく、右手の力も抜けて打てるのである。

剣道を知る その120 剣道形の目的について

・・・剣道形の目的について・・・
剣道形は各流派のすぐれた技を集め、剣道の技術の中において最も基本的な打突法を組み立てたものです。礼式、構え、間合い、攻め、打突、気合い、残心など、すべての術技ともいえるもので、次のような目的を達成することが出来る。
正しい礼儀が身に付く。
正しい姿勢ができ、落ち着いた態度が身に付く。
眼が明らかになり、相手の動きや気持ちを観察できる。
足の運びが良くなる。
悪い癖が直り、太刀筋が正しくなる。
気合いが錬れて、気魂が充実する。
動作が機敏、軽快になる。
適切な間合いを知ることができる。
打突が確実となる。
数多く修練することによって、気品や風格ができ、気位が高くなる。

剣道を知る その121 正面打ちについて

・・・正面打ちについて・・・
1.振り上げた両腕の下から相手の面が見える程度まで正しく振りかぶる。
2.振り上げた竹刀が左右に曲がらないように注意し、振り下ろしるときは体の正中線を通るようにする。
3.気合いの入った大きな声と共に打つ。
4.打つときに、右足の踏み込みと一致する(一拍子になる)ようにする。
5.打った後、左足を残さないように腰を入れて、充分に引き付け、腰から相手に体当たりするような気持ちで打ち込む。
6.面を打ったときの右腕は方の高さになるように止める。
7.打ったときの両手は、肘を伸ばしてしっかり絞り込む。
8.竹刀の弦の反対側で、竹刀の刃部3分の1より先で打つ。

剣道を知る その122 剣道での礼儀について

・・・剣道での礼儀について・・・
剣道のような対人関係の武道は、打突するたびごとに非常に刺激が強く、ややもすると原始的な闘争本能のみの単なる打ち合いに陥りやすい。そのために礼儀 によって人間的に統率し相手の人格を尊重することが大切になるのである。また、自分の弱点を打突してくれたとき、自己の力の不十分さ、技術の足らないところを深く反省して、相手が自分を直接教えてくれたという感謝の気持ちをもつことが重要で、そのために相手に対する礼儀を大切にしなければならないのである。

剣道を知る その123 間合いについて

・・・間合いについて・・・
「一足一刀の間合い」とは「常の間」と言い、一足踏み込めば相手を打突できる距離で、ふつう両者の剣先がわずかに交差する程度である。この間合いから近くなったのを「近間」遠くなったのを「遠間」と言う。相手を打つために「一足一刀の間」になることを「打ち間に入る」「自分の間に入る」などという。また、距離的にも技術的にも相手と絶縁して相手が打ってこれない状態を作るこことを「間合いを切る」と言う。

剣道を知る その124 剣道形修行について

・・・剣道形修行について・・・
剣道形は各流派のすぐれた技を集め、剣道の技術の中において最も基本的な打突法を組み立てたものです。礼式、構え、間合い、攻め、打突、気合 い、残心など、すべての術技ともいえるもので、極めて高度なものであるので、初心者はもちろんのこと上級者も常に形の稽古によって正しい剣道を修得することが必要です。
正しい礼儀が身に付く。
正しい姿勢ができ、落ち着いた態度が身に付く。
眼が明らかになり、相手の動きや気持ちを観察できる。
足の運びが良くなる。
悪い癖が直り、太刀筋が正しくなる。
気合いが錬れて、気魂が充実する。
自分の動作が機敏、軽快になる。
適切な間合いを知ることができる。
打突が確実となる。
数多く修練することによって、気品や風格ができ、気位が高くなる。
などの剣道の基本となる手足の捌き、気合い、呼吸、打突の機会等を修得することが出来るので剣道の稽古の際には剣道形も合わせて修行するよう努めなくてはならない。

剣道を知る その125 切り返しについて

・・・切り返しについて・・・
大きく正しく。
背中まで振りかぶって相手の中心に対して45度の角度に打つ。
間合いを正しくとる。
元立ちに対して間合いが近くならないようにする。
左手は常に体の中心にとり右手は伸ばす。
左手が中心から外れることは右手で打つことになる。
体で調子をとってはいけない。
体を曲げのばしして打つことはいけない。
太刀の返りを利用して打つこと。
打った返りと冴えを利用して打つこと。
そこに「打ち返し」の意義があると言われれいる。

剣道を知る その126 手の内について

・・・手の内について・・・
手の内(てのうち)とは、竹刀の握りと教える場合がありますが、竹刀を操作する掌中の作用であり、両手首・両手の指を最も効率的に使う動きのことをいいます。手の裡(てのうち)とも書きます。
具体的には
 柄を持つ左右の手の持ち方
 左右の手の力の入れ方
 打突の際の両手の力の緊張状態とその釣り合い
 打突後の力のゆるめ方
これらを総合的に手の内とも言います。

剣道を知る その127 反則を2回以上行うと相手に一本与える反則について

・・・反則を2回以上行うと相手に一本与える反則について・・・
定められた以外の用具(不正用具)を使用する。
相手に足をかけまたは払う。
相手を不当に場外に出す。
試合中に場外に出る。
(場外とは)片足が、完全に境界線外に出た場合。倒れたとき、身体の一部が境界線外に出た場合。境界線外において、身体の一部または竹刀で身体を支えた場合。
自己の竹刀を落とす。
不当な中止要請をする。
その他、この規則に反する行為をする。
(禁止行為とは)相手にてをかけまたは抱えこむ。相手の竹刀を握るまたは自分の竹刀の刃部を握る。相手の竹刀を抱える。相手の肩に故意に竹刀をかける。倒れたとき、相手の攻撃に対応することなく、うつ伏せなどになる。故意に時間の空費をする。不当なつば(鍔)競り合いおよび打突をする。
上記の場合は、反則とし、2回犯した場合は、相手に1本を与える。反則は1試合を通じて積算する。ただし、同時反則によって両者が負けになる場合は相殺し、反則としない。解答は赤で書かれているものが反則2回で相手に1本与える反則です。

剣道を知る その128 気位について

・・・気位について・・・
気位(きぐらい)とは、長い年月をかけて修練や鍛錬を続けたことによって、技を充分に修得しさらに精神的にも鍛えられたその人からにじみ出る侵しがたい気品を言います。

剣道を知る その129 有構無構について

・・・有構無構について・・・
有構無構(ゆうこうむこう)とは、基本的な構えは中段や上段がありますが、自分の構えにこだわったり、相手の構えを考えすぎたり用心をしすぎたりすると、自由な動きができなるものです。構えはあってないのと同じで、最終的には勝敗というものは心の闘いが左右するので、構えにこだわらずに、心の内の構えが大切であるという意味です。

剣道を知る その130 三つの隙について

・・・三つの隙について・・・
相手が油断したり剣道で言う四戒などの気持ちを持ったときの「心の隙」この隙が現れないように不動心・平常心でを養うことが大切です。相手の技の起こり頭や技の尽きたときなどの「技の隙」打とうとうところや出るところ、退くところなどで隙が生じないように気を持って攻め隙を作らないようにすることが大切です。技を出したり、打突に失敗したときなどに体勢が崩れ、充分な残心がとれないようになった「身体の隙」を三つの隙と言います。

剣道を知る その131 しかけ技と応じ技について

・・・しかけ技と応じ技について・・・
しかけ技とは相手が打突の動作を起こす前にこちらから相手の中心を攻めたり、竹刀で押さえて隙をつくらせ、または、相手の隙を発見すると同時に打ち込んでゆく技です。また、応じ技とは相手の仕掛けてくる技を、「すりあげる」「返す」「抜く」「打ち落とす」などをして、相手の攻撃を無効にして同時にうまれた 隙を打ち込む技のことです。

剣道を知る その132 構えについて

・・・構えについて・・・
構えには次の中段・下段・上段・脇・八相の構えがあり「五行の構え」といいます。
○中段の構え「常の構え」「正眼の構え」といわれるように、攻防に最も都合がよく、理想的な構えです。剣先を相手の中心に付け、自然体の姿勢から右足を前に出し、左足をへその前に置き、握り拳ひとつぐらい出すようにします。
○下段の構え「守りの構え」といわれますが、八方の敵に応じることのできる構えといわれます。相手に隙があれば直ちに攻撃に転ずることが可能な構えでなくてはなりません。中段の構えから竹刀を下げ剣先を延長線が相手の両膝の中間に付けるようにします。
○上段の構え「火の構え」といわれる最も攻撃的な構えです。相手の技の起こり頭を一刀で制する気持ちで構えます。中段の構えから竹刀を頭上に上げ両腕が顔の前で三角形を作るようにします。左上段、右上段ともに双手と片手がある。
○脇構え「陽の構え」といわれ、相手の出方に応じて竹刀を長くも、短くも使い分けることができる構えです。中段の構えから右足を一歩引き、手元を右脇に引き寄せ竹刀の先を水平よりやや下げ、剣先を身体にかくして相手から見えないようにし、竹刀の長さを知られないようにします。
○八相の構え「陰の構え」といわれ、自ら攻撃を仕掛けるのではなく、相手の出方によって攻撃に変 わる構えです。中段の構えから左足を一歩踏み出すとともに左拳を右乳頭部の前に、右拳を口元の高さにします。抜いた刀と鞘が八の字をなすから八相という。また、瞬時に八方の敵に対応できるから発早とかく流派もある。

剣道を知る その133 間合いについて

・・・間合いについて・・・
間と間合いは同じ意味で使う場合もありますが、厳密に区別すれば次の通りです。「間」とは時間的な距離をさし「間拍子」や「拍子の間」などに使われている。「間合い」とは空間的な距離で相手と自分との距離をさします。「我より近く、相手より遠い」と言われるのが間合いです。しかし、間合いを略して間ということがあります。一般に言う間合いとは、相手との距離をさし、剣先がふれあう程度(竹刀が10センチ程度交わった)の間合いを一足一刀の間合いといい、1歩踏み込めば相手を打突できる距離です。それより近くなった間合いを近間、遠くなった間合いを遠間といいます。

剣道を知る その134 懸待一致について

・・・懸待一致について・・・
懸待一致とは、攻める(懸かる)ことばかりに専念しても、備える(待つ)ことばかりに専念しても隙が生じてしまいます。だから、旺盛な気力とともに、懸かるところに待つ心、待つところに懸かる心がなければならないという教えを表現した言葉です。「懸中待(けんちゅうたい)」「待中懸」ともいいます。簡単に言えば「攻防一致」といってもいいでしょう。

剣道を知る その135 三殺法について

・・・三殺法について・・・
三殺法とは、相手の「気を殺す」「竹刀・太刀を殺す」「技を殺す」ことをいいます。気を殺すとは、充実した気力を持って相手の気を崩して攻めることを いいます。竹刀を殺すとは、相手の竹刀を抑えたり払ったり、叩いたりして竹刀の自由に使わせないことをいいます。技を殺すとは、相手の打ちに対して先を取って乗ったりはじいたりして、相手に攻撃の機会を与えないことをいいます。千葉周作はこれを「三つの挫き」と表現しています。

剣道を知る その136 鍔ぜりでの膠着状態について

・・・鍔ぜりでの膠着状態について・・・
つば競り合いに入った場合で、適正に行われていて、技を出そうとして競り合っているが、双方どうにも技を出せない状態を膠着という。

剣道を知る その137 守破離について

・・・守破離について・・・
守破離とは、修練の過程を示した言葉です。守とは、師の教えを守りながらひたすら基本を身につけることをいいます。破とは今までの教えを基礎として自分の個性を活かし、自分自身のものを創造する段階です。離とは最初の守の段階の教えから外れるのではなく、破の段階で身につけたものを中核として、自由自在に行動しながらいままでの教えを乗り越える段階をいいます。

剣道を知る その138 三つの先について

・・・三つの先について・・・
打つ機会である先(せん)には次の三つの先があります。
先の先(先々の先)とは相手の思惑を素早く察知して相手が動作を起こす前に打つことをいう。対の先(先・先前の先)とは相手の思惑までは察知できないが、打突してくる起こり頭をとらえたり、相手の技が功を奏する前に、すり上げたり返したりして勝ちを制することを言います。後の先(待の先・先後の先)とは相手に「先」を仕掛けられて、それに応じる場合をいいます。相手の打ってくる技をかわしたり、打ち落としたりして相手の気持ちの萎えたところや、体の崩れたところを打つことをいいます。

剣道を知る その139 明鏡止水について

・・・明鏡止水について・・・
明鏡止水とは、自分の心から四戒などの邪念をとりはい、心が明らかな鏡のように澄み切っていれば、静まりかえった水面が月を写すように、相手の隙が自然に自分の心に映るということです。

剣道を知る その140 目付について

・・・目付について・・・
目付とは、剣道では「一眼二足三胆四力(いちがんにそくさんたんしりき)」ということばがあるように、「眼」は単に物理的に見るだけでなく洞察力の意味もあります。目付を説明する「遠山の目付」「観見の目付」という言葉があるます。遠山の目付(えんざんのめつけ)とは、相手と対峙したときに、相手の竹刀や打突部など一ヵ所だけを見つめたりしないで、遠い山を望むように、相手の顔を中心に体全体をおおらかに見なさいという教えです。観見の目付(かんけんのめつけ)とは、「観」は洞察力をいい「見」は物理的に動きを捕らえる目をいいます。両者とも相手の目を見ることが大切とされています。「目は心の鏡」といわれるように目を見ればその人の心の状態がわかります。また、目を見ることによって相手の身体全体が見えるものです。「観の目強く、見の目弱く」という教えもあります。相手を見るのに「目で見るより心で見よ」という意味です。宮本武蔵は「観の目強く、見の目弱し」と言っています。

剣道を知る その141 剣道指導者の心得について

・・・剣道指導者の心得について・・・
確固たる信念と情熱の持ち主であること。
愛情を持って誠心誠意指導にあたること。
教えることに喜びを持つこと。
人格を養い、技能の向上に努力すること。
能率的・合理的な指導法の研究を常に心掛けること。
指導を受ける者とともに修練すること。
審判技術に熟達すること。
自分の教えをうまく表現する能力を養うこと。
指導を受ける者の持つ個々の優れた才能を見つけることのできる指導者としての目を養うこと。
指導のし過ぎにならぬよう留意すること。

剣道を知る その142 狐疑心について

・・・狐疑心について・・・
狐疑心(こぎしん)とは、狐は疑い深い動物で、狩人に追われたときに逃げ場に困り道に迷っている間に脇に回られて狩人に撃たれてしまうことがあります。このことから、狐のように疑い深く進退の決心がつかないことをいい、剣道における戒めのひとつです。

剣道を知る その143 無念無想について

・・・無念無想について・・・
無念無想(むねんむそう)とは、簡単に言えば、よけいな事を何も考えない心の状態をいいます。剣道では、四戒または四病ともいう驚(きょう)懼(く) 疑(ぎ)惑(わく)といった心の混乱や、自分の気持ちが一時的に止まって瞬間的動作のできない心が居着く状態、狐疑心といった疑い深く進退の決心がつかない心、勝敗や自分の利己的な考え、これらの自由な心、体の動きを阻害するこまった状態から解放された、まさに明鏡止水の心境をさす言葉です。

剣道を知る その144 切り返しの受け方について

・・・切り返しの受け方について・・・
相互に中段の構えから、機を見て剣先を右に開いて正面を打たせる。ただちに連続左右面を後退または前進しながら打たせ、打ち終わったら双方が中段の構えになるように間合いを充分にとって、直ちに剣先を開いて正面を打たせる。この「正面→連続左右面→正面」の動作を数回繰り返す。初心者に対しては面打ちを引き込むように受け、技量の上達したものには打ちを落とすように受けるなどする。連続の左右面を受けるときは「歩み足」で受ける。竹刀を垂直にし左拳をほぼ 腰の高さ、右拳をほぼ乳の高さにして、両拳が上がりすぎないように注意する。留意点では、次のような切り返し五則という教えがありそれを守って行います。
 大きく正しく、常に刃筋を正しく打つ。
 正しい間合いを守りながら前進後退をする。
 左手の拳は常に体の中心にあって、面を打ったときには右手はきちっと伸ばす。
 体で調子をとって打つのではなく、気剣体を一致させて打つ。
 太刀の返りを利用して打つ。

剣道を知る その145 四つの足さばきについて

・・・四つの足さばきについて・・・
歩み足(あゆみあし)とは、日常生活で行う歩行と同じ要領で交互に足を前に出す足運びで、相手との距離があり、送り足では間をつめるのに時間がかかる時に用います。
送り足(おくりあし)とは、最も基本的な足運びで、基本の構えをしたときの右足が前で左足が後ろの形です。進行する方向の足から移動を開始して、ついで他方の足を移動した足に引きつける動きです。 
開き足(ひらきあし)とは、相手の打突を、身体を左右にさばいてかわすのに用います。左に捌いたときは左足が前になります。剣道形の4本目、仕太刀の動きです。
継ぎ足(つぎあし)とは、後ろ足を前足に引きつけ、前足から前進する足運びで、相手との距離が遠くて打突が届かないとき、間を盗んで大きく踏み出すために用います。

剣道を知る その146 剣道の礼儀について

・・・剣道の礼儀について・・・
剣道は、「礼に始まって礼に終わる」と言われているように、特に礼儀作法を重んじ、厳格に行われてきました。剣道は対人的格闘技であるので、ややもすると 原始的、闘争的本能を発揮しやすくなる傾向があります。この本能を礼儀によって人間的に統制したり制御するところに礼の意義があります。また、人の心は形にあらわれるもので、常に相手の人格を尊重しつつ、お互いに心を練り、体を鍛え、技をみがくためのよき協力者として、感謝の心を持って礼儀作法を正しくすることが、相互によい剣道を形成していく上に大切なことです。

剣道を知る その147 残心について

・・・残心について・・・
残心とは、相手を打突した後も気持ちをゆるめることなく、少しも油断もなく、その後の変化に直ちに応じられるような心構えをいいます。一般的には打突の後に中段の構えにもっどて相手に正対することになります。自分の打突が有効打突にならなくとも、気を緩めず残心をとって相手の反撃に応じることができなけれ ばなりません。また、試合では、有効打とつと審判が判定しても、残心がなければ合議の上、取り消すことができる試合規則になっています。いずれにしても剣道において残心はなくてはならない大切な心と体勢です。

剣道を知る その148 気合いについて

・・・気合いについて・・・
気合いとは、有効打突の条件である気剣体一致の重要な要素です。打つときの気合いはもちろん大きい発声で自分の気持ちを表します。また、相手と対峙して竹 刀を交え、これから攻撃するという、精神を集中し万全の注意をはらった状態で、心の底からにじみ出てくる気持ちも、気合いといい、発声がない場合もあります。初心のうちは大きい声で自分の気合いを表現することがいいでしょう。高段者になるいつれて、無声の気合いもでるようになります。

剣道を知る その149 虚実について

・・・虚実について・・・
虚実(きょじつ)の虚とは相手の守りの弱い状態(守りの薄い)のところ、実とは強いと状態(十分守っている)のところをいいます。実を避けて虚を打てという教えです。相手の虚実はこちらからの攻め方(誘い方)によっても変化します。その虚実の変わり目を打つことが大切です。

剣道を知る その150 捨て身について

・・・捨て身について・・・
捨て身とは、身を捨てたときこそ、はじめて浮かび上がってくる機会があり、相手の隙を見るやいなや、躊躇することなく身を捨てて打ち込んでいくことにより、勝ちを得ることができます。この時に、自分が打たれるなどという、弱い気持ちが起きてはいけません。

剣道を知る その151 放心について

・・・放心について・・・
放心とは、ふつう「放心」というと、心がぼーっとしてまとまりのない状態をいいますが、剣道でいう「放心」とは、どんなことにも対処できるように、心をとき放ち、何ものにもとらわれない心をいいます。明鏡止水や無念無想のこころと同じような心です。

剣道を知る その152 自然体について

・・・自然体について・・・
自然体とは、剣道の「構え」のもととなる体勢で、どこにも無理のない自然で安定感のある姿勢のことを言います。この姿勢はいかなる身体の移動にも、また相 手の動作に対しても敏捷でしかも正確に、かつ自由に対処できるような良い姿勢です。この姿勢は剣道に限らず一般的にも良い姿勢と言われます。

剣道を知る その153 剣道具着用時の心がけについて

・・・剣道具着用時の心がけについて・・・
(垂)垂紐を中央の大垂の下で花結びにする。充分に力を入れてきつく結ぶこと。
(胴)胴の下端が垂帯の半分幅ほど隠れるようにつける。左右の紐の長さを同じにして胴が水平になるようにする。次に、胴の下部の胴紐を忘れずに花結びにすること。
(手拭い)面を着ける前にまず手拭いをかぶる。手拭いは途中ではずれないようにしっかりとかぶること。
(面)顎を安定させるように顔をいれ、面紐を引き締めて面が頭部や顔の部分にしっかりと密着するように着ける。左右の則頭の面紐は2本ずつそれぞれ平行にそろえる。結び終わったら紐の長さをそろえる。(長さは結び目から40センチ以内にする。長い場合はあらかじめ切って、紐の端を処理しておく)耳の付近の面布団 を開き、耳と面布団が密着しないようにする。これは鼓膜の損傷を防止するためである。稽古中に紐がほどけないようにきちっと結ぶ習慣を付けましょう。
(小手)左小手、次に右小手の順で小手を着ける。小手紐は適度に締めて、あまりきつくならないようにすること。また、小手紐が長くたれないように注意する。

剣道を知る その154 観見の目付について

・・・観見の目付について・・・
観見の目付(かんけんのめつけ)の、観とは洞察力をいい、見とは物理的に動きを捕らえる目をいいます。両者とも相手の目を見ることが大切とされています。「目は心の鏡」といわれるように目を見ればその人の心の状態がわかります。また、目を見ることによって相手の身体全体が見えるものです。「観の目強く、見の目弱く」という教えもあります。相手を見るのに「目で見るより心で見よ」という意味です。 宮本武蔵は「観の目強く、見の目弱し」と言っています。

剣道を知る その155 剣道の見学について

・・・剣道の見学について・・・
剣道を見学することによって上達の手助けにすることから、見取り稽古といいます。これは、ばくぜんと見学するのではなく、他人の稽古や練習態度、得意技などを研究しながら、よい点は取り入れ自分の剣道に役立てて行くように見学することを言います。特に、自分がいつも注意を受けているところや、自分の不得意な技を他の人がどのように行っているかなど、気持ちを集中して見学しなければいけません。そして、自分の剣道を反省する材料にするのです。また、自分が防具を付けて稽古をしているときでも、常に見取り稽古を心掛けなければいけません。

剣道を知る その156 剣道形の練習について

・・・剣道形の練習について・・・
形は約束に従い、一定された形式と順序によって練習するものであるが精神的には形にとらわれることなく、何れにも変化できるだけの心身の余裕を持つ。打太刀は約束に従って気合を充実して仕太刀を破る気魄で打ち込む。仕太刀はどこから打ち込まれても臨機応変の処置ができる体勢を整えて初めて約束に従うことができるのである。形の実施中は、始めの座礼から終わりの座礼まで、構えをといて後退するときでも気をゆるめずに、終始充実した気魄で練習する。打太刀は師の位であり、客位に合って打突動作の相手となり、仕太刀の動作を完全に表示させる。仕太刀は門人の位であり、主位にあって、打太刀に動作を行わせ、それによって自分の動作を完全に表示する。通常打太刀に上位の者があたり、あくまでも打太刀が仕太刀をリードして双方の呼吸が合い、十分な気合の充実が肝要であり、心技ともに打太刀から始動し、仕太刀は常に打太刀に従って行動する.
7.形の練習にはまず形の技術に熟練するとともに形の理合いも理解しなければならない。打太刀、仕太刀の位置は、これまで正面に向かって左が打太刀、右が仕太刀とされていたが、論拠が不明白で地区的には、まちまちであった。そこで昭和42年9月、日本武道館で行われた全日本剣道連盟の講習会に当り講師が協議した結果、これが従来とは逆になり正面に向かって右が上席、すなはち打太刀とし、左を次席、すなはち仕太刀と改めることを申し合わせ伝達された。その理由は宮内庁の礼法により、正面に向かって右が上席で左が次席であることが明確にされたことによる。

剣道を知る その157 打突の好機について

・・・打突の好機について・・・
打突すべき次のような機会を指します。
起こり頭:出頭、出鼻ともいい動作を起こそうとする瞬間。
受け止めたところ:相手が自分の打突を受け止めた瞬間。
居着いたところ:心身の活動がにぶり、動きが一時停滞した瞬間。
退くところ:相手が攻めに屈して退こうとした瞬間。
技の尽きたところ:相手の技が一時中断し、体勢を整えようとする瞬間。
特に1)2)3)を「三つの許さぬ所」といいます。

剣道を知る その158 正しい中段の構えについて

・・・正しい中段の構えについて・・・
(両足)右足を半歩前に出し、両足のつま先は前方に向けて、左右の開きはおよそ握り拳の幅くらいにする。前後の開きは右足のかかとの線に沿って左足 のつま先を置くようにする。また、左足のかかとをわずかに浮かせて体重を両足に等しくかけ、両膝はまげず伸ばさずの状態に自然に保つようにする。
(竹刀)先の高さは、およそ自分ののどのの高さにする。しかし、相手がいる場合は、相手ののどの高さで、剣先の延長線が相手の両眼の間たは左目の方向を向くようにする。
(両肘)両肘は張り過ぎず、すぼめ過ぎず、伸ばし過ぎずの状態で、肩の力を抜き、自然に体側につけ、ゆとりを持って構える。
(目付)相手の目を中心に、全体を見るようにする。
(竹刀の持ち方)左こぶしの位置はへその高さで、拳一握り分からだから離す。左手の小指を柄頭いっぱいにかけて上から握り、小指、薬指、中指を締め、人指し指と親指を軽く添える。右手も同様に上から軽く握り、右こぶしは鍔よりわずかに離れるようにして持つ。

剣道を知る その159 着装した防具がすぐほどけない方法について

・・・着装した防具がすぐほどけない方法について・・・
1.面を着けるときは、あご、ひたいの順に合わせて十分に密着させるようにる。面ひもは面金に付けてあるところから順に締めていき、後頭部で結ぶときにゆるまないように注意してしっかりと結ぶ。
2.面ひもの長さは結び目から40センチになるように切って調整する。
3.結び目がたて結びだとほどけやすいので横結びにする。
4.胴ひもの長い方(上紐)を乳革に結んだ後、ゆるまないようにひもを十分に引っ張っておく。
5.胴の下ひも(胴の後ろで結ぶ短いほう)はたて結びにするとほどけやすいので横結びにする。結んだ後、両方に引っ張っておく。
6.垂れを付けるときは、腹を少しへこませた状態できつく締めて、横結びにする。
7.小手ひもはかた結びにし、つねにほどけていないか点検をする。
8.すべてにおいて、稽古の途中でゆるんでいないかを点検する習慣を付ける。

剣道を知る その160 素振りの方法と効果について

・・・素振りの方法と効果について・・・
(方法)素振りの種類は、正面打ち素振り、左右面素振り、上下振り、斜め振り、空間打突などがある。いづれも前後や左右の足さばきを同時に行う。
1.正面打ち素振り
・中段の構えから「手の内」を変えないようにして竹刀をできるだけ大きく振りかぶる。
・竹刀の物打ちが自分の面の高さになるように止める。
・その時の両肘は絞り込むようにして伸ばし、右腕は肩の高さ、左こぶしはみぞおちの高さで十分に手の内をしぼって止める。
・その後、そのまま振りかぶり同様に続ける。
2.左右面素振り
・正面の素振りと要領は同じだが、打つ場所が相手の面の左右45度の角度になるように正しく打つ。
・振り下ろしたとき、左のこぶしが自分の中心からはずれないように注意する。
・振り下ろした後、自分の頭上で竹刀を回すようにして反対側の斜め45度に振り下ろす。
・これを同様に続ける。
3.跳躍素振り
・正面の素振りと要領は同じだが、振りかぶるときに後ろに飛び下がり、打つときに前に踏み込む。
・下がったときも前に出たときも、常に足は正しい正しい位置で止める。
・特に、左のつま先が右足のかかとより前に出ないように注意する。
4.上下振り
・中段の構えから「手の内」を変えないようにして竹刀をできるだけ大きく振りかぶる。
・止めることなく両腕を伸ばし、左こぶしを下腹部の前まで引きつけて充分に振り下ろす。
・両こぶしは内側に絞るようにし、振りおろした時の剣先の位置は仮想の相手の膝頭の高さぐらいにする。
・この動作を繰り返して行う。
5.斜め振り
・中段の構えから大きく振りかぶり、竹刀は右斜め上から45度ぐらいの角度をもって左膝頭の高さぐらいまで振りおろす。
・さらに大きく振りかぶって頭上で返し左斜め上から前と同じ要領で右膝頭の高さぐらいまで振りおろす。
・この動作を繰り返して行う。
6.空間打突
・素振りの応用動作で、相手(目標)を空間に仮想して、面、小手、胴,突などの打突の稽古をする方法であり、空間打突の正面打ちに跳躍をつけて行う方法を跳躍素振りという。
(効果)
1.手、足、体の一致を修練することができる。
2.初心者は、素振りによって竹刀の操作を覚えることができる。
3.打突に必要な手の内を覚え、打ちの冴えを身につけることができる。
4.足さばきと竹刀の振りの調和を身につけることができる。
5.稽古の前に行うと準備運動としてもよい効果的が期待できる。

剣道を知る その161 道場の出入りについて

昔から道場の出入りには必ず礼をするしきたりがある。それはその人の心構えを示すものである。入るときは「神に恥じない心で修行します」という誓いの礼で、帰るときは「ありがとうございました」という感謝の礼である。具体的な方法は、道場の出入り口に立ち、神前(神棚がない場所では上席にあたる方向)に注目して、姿勢を正し、頭を下げる。その時は、首を曲げずに、腰から体を折るようにする。その角度はおおむね30°にする。すぐに戻さずに、一呼吸ぐらい頭をさげ、静かにもとの姿勢に戻すとよい。

剣道を知る その162・・・残心と引き揚げの違いについて・・・

残心とは相手を打突した後でも心をゆるめることなく相手に心構えや身構えを示して、相手の動作にすぐに対応できる心や体の用意をすることをいう。これに反して引き揚げとは、打突後に相手に対する心の用心がなく、相手に対する身構えがなく、油断したり相手に背中を見せて逃げるような態度を取ることを言う。試合規則では、この引き揚げを戒めるために、有効打突の宣告があった後でも、合議の上、取り消すことができると規定されている。


剣道を知る その161・・・道場の出入りについて・・・
昔から道場の出入りには必ず礼をするしきたりがある。それはその人の心構えを示すものである。入るときは「神に恥じない心で修行します」という誓いの礼で、帰るときは「ありがとうございました」という感謝の礼である。具体的な方法は、道場の出入り口に立ち、神前(神棚がない場所では上席にあたる方向)に注目して、姿勢を正し、頭を下げる。その時は、首を曲げずに、腰から体を折るようにする。その角度はおおむね30°にする。すぐに戻さずに、一呼吸ぐらい頭をさげ、静かにもとの姿勢に戻すとよい。

剣道を知る その162・・・残心と引き揚げの違いについて・・・
残心とは相手を打突した後でも心をゆるめることなく相手に心構えや身構えを示して、相手の動作にすぐに対応できる心や体の用意をすることをいう。これに反して引き揚げとは、打突後に相手に対する心の用心がなく、相手に対する身構えがなく、油断したり相手に背中を見せて逃げるような態度を取ることを言う。試合規則では、この引き揚げを戒めるために、有効打突の宣告があった後でも、合議の上、取り消すことができると規定されている。

剣道を知る その163・・・三つの間合いについて・・・
(一足一刀)一歩踏み込めば相手を打突できる間合いである。一歩さがれば相手の攻撃をはずすことのできる
距離で、打ち間ともいい、剣道の基本的な間合いである。
(遠間)一足一刀の間合いより遠い間合いを言う。この間合いは相手が一歩踏み込んで打突しても有効な打突
には成りがたい安全な間合いで、試合や上位の者に対しては、この間合いをとり、相手の隙を見て一足一刀の間合いに進んで打突するのである。
(近間)一足一刀の間合いより近い間合いである。そのまま一歩踏み込んで打っても元打ちとなり、一歩退けばすかさず相手から打突される危険な間合いである。

剣道を知る その164・・・試合にのぞむ心構えについて・・・
1.当日には普段の心身の疲れを完全に回復させ体調を最高の状態に整える。
2.睡眠を十分にとり、精神の安定をはかる。
3.普段から暴飲暴食などは慎む。
4.当日の朝は、余裕を持て準備し試合までゆったりとした気持ちを保つ。
5.防具や竹刀の手入れを十分行い、万全の体制で試合にのぞむ。

剣道を知る その165・・・竹刀の「構え方」と「納め方」について・・・
(構え方)右足をわずかに出して、右手で竹刀の柄の鍔元を上から握り、蹲踞しながら、斜め上から竹刀を抜き、左手で柄頭を握って抜き合わせ、左足を引きつけて蹲踞し、立ち上がって中段の構えになる。
(納め方)中段の構えから蹲踞し、左手を竹刀から離して腰にとり、右手で剣先を左上から斜め後方に回し、弦を下にして腰にあて、左手で竹刀を握り、右手は軽く腿の上に置いて立ち上がり、帯刀の姿勢になる。いずれも、相手と合気になって行うことが大切である。

剣道を知る その166・・・呼吸について述べよ・・・
呼吸は剣道において、極めて大きな役割をもっている。すなわち、息を吸い込むとときは、十分な力を出し得ないものであり、十分な力を出すには息を止めているか息を吐くときである。力を出すときには、よく掛け声をかけるが、声そのものが大切なのではない、掛け声をかけるには、必ず息を吐かなければならないから、十分な力を出すとき には、自然と声が出るのである。したがって、相手が息を吸うところを、自分は息をはきながら打つのが効果的となる。また、平素からなるべく平静に呼吸するように注意して、自分の呼吸を相手にさとられないようにすることが大切である。

剣道を知る その167・・・剣道の基本操作について・・・
1.指導者の教えを守り、一生懸命に稽古をする。
2.大きな声を出して全力で稽古をする。
3.健康に心がけ稽古を休まない。
4.習ったことは必ず出来るように復習する。
稽古時の留意点としては、
1.動作は大きく、正しく行なう
2.動作は常に体を伴わせて行なう
3.左拳は常に正中線上にあるようにする
4.振りかぶりは必ず頭上まであげる
5.一本一本確実に打つ
等が大切です。

剣道を知る その168・・・剣道形の修行目的について・・・
剣道形は、剣道の技術の中でもっとも基本となるもので、理にかなった正確な打突、機敏な動作、間合い、気合いの修得、悪い癖の矯正などに役立ちます。形式だけでなく、本来の目的を理解し、稽古や試合に応用できるように身につけていくことが大切です。
剣道形の効果としては、次のようなことが言えます。
1.礼儀が正しくなり、落ち着いた態度が身につく。
2.姿勢が正しくなり、観見の目がきくようになる。
3.技術上の悪いくせを取り除き、正しい太刀の使い方を覚える。
4.動作が機敏になり、間合の取り方を覚える。
5.気合が練れて、気魄が充実する。

剣道を知る その169・・・かけ声について・・・
剣道におけるかけ声は、次のような効果があります。
 大きな声を出すことにより、自らを励まし、気勢を増し、恐怖の心をなくし、攻勢に出られる。
 相手に驚きや恐れを与える。
 無心になることができる。
 心気力の一致をはかれる。
 打突の瞬間に声を出すことによって速く、強く冴えた打ちになる。
気合いとは、全身に気力を充満させ、少しの油断もなければ邪念もない状態をいう。
初心のうちは、相手に威力を感じさせるくらい、力のこもった、腹の底からの発声を心がけることによって、気合いが徐々に育成されるのである。

剣道を知る その170・・・剣道の理念について・・・
「剣道の理念」剣道は剣の理法の修練による人間形成の道である。したがって、一生が修業であることを自覚して、常に真剣な気持ちで修業することが大切である。素直な気持ちで師の教えに従い、基本と応用に熟達するよう修業し、稽古の積み重ねと心の工夫に努める。こうした鍛錬的な実践と同時に、剣道を取り巻く理論的な研究を深め、形の習熟などによって理合を認識し、心身ともに健全な生活を送ることが大切である。
剣道修練の心構え
 剣道を正しく真剣に学び
 心身を錬磨して旺盛なる気力を養い
 剣道の特性を通じて礼節をとうとび
 信義を重んじ誠を尽して
 常に自己の修養に努め
 以って国家社会を愛し
 広く人類の平和繁栄に
 寄与せんとするものである

剣道を知る その171・・・剣道の「立礼」について・・・
立礼には二とおりの作法があるが、いずれも真心をこめ、節度をもって折り目正しく行うようにする。
1.上体を約30度前傾して行う礼は、神前や上座、上席に対する礼法である。
2.上体を約15度前傾し、相手に注目して行う目礼は、試合や稽古の際の互いの礼法である。

剣道を知る その172・・・打ち込み稽古について・・・
(打ち込み側)
元立ちの与える打突の機会を逃さず、瞬時に気剣体の一致の打突を行わせる。
ひと打ちごとに充実した気勢で打突させる。
常に次の打突の機会に備えるよう習慣化させる。
(元立ち側)
1.気を抜かず、常に合気になって対応させる。
2.間合いに留意し、打突の機会を的確に与え、正しい打突を引き立てるようにさせる。
3.単調な打突動作の繰り返しにならないように各種の技を施すことができるよう変化のある対応を工夫させる。

剣道を知る その173・・・「打ち込み稽古」と「かかり稽古」について・・・
「打ち込み稽古」は、元立ちの与える打突部位を捉えて、打突の基本的な内容に留意しながら繰り返し打ち込んでいくなかで、打突の基本的な技術を体得する稽古法である。「かかり稽古」は、打突の成否など一切念頭に置かず、積極的に相手を攻め崩して打突の機会をつくり短時間のうちに気力、体力の限りを尽くして、全身を 使って大きく伸び伸びと「しかけていく技」を用いて打ち込む。技術と心肺機能の向上を図り、気力や体力を練りあげる稽古である。

剣道を知る その174・・・かかり稽古の心がけと効果について・・・
相手から打たれたり、いなされたり、応じられたりすることにとらわれずに、自分の思いのまま十分な気力と体力をもって、いろいろな技を身を捨てて強く激しく打ち懸かる稽古です。
かかり稽古には次のような効果があります。
1.敏捷性・持久力が養われる。
2.手の内、手の返しがよくなる。
3.正しい間合いを知る。
4.打つべき機会を知る。

剣道を知る その175・・・稽古の種類について・・・
(約束稽古)前もって打つところを決め、基本に従った打ちを行い、姿勢や打ち、間合い、足捌きなどを体で覚えるために行います。
(打ち込み稽古)あらかじめ打ち込む部位を決めておいて、元立ちの作ってくれた隙を打ち込む基本的な稽古法です。
(かかり稽古)元立ちに対して、自分で相手の隙をみつけ、自分の意志で打ちかかる稽古。元立ちは、打つタイミングが悪いときや、遅れたときなどは、いなしたり、反対に打ってでます。正しい打突、間合い、機会、気持ちを集中する練習になります。
(互角稽古)技術や修業の度合いの同じ程度のものが、互いに学んだ技、体力、気力をすべて出し合い、一本、一本試合のように打ち込むことを学ぶ稽古。
(引き立て稽古)指導者や上位者が元立ちとなり、下位者の技能が向上するように引き立てる稽古法である。
(見とり稽古)漠然と見学するのではなく、他人の稽古や練習態度、得意技などを研究しながら、よい点は取り入れ自分の剣道に役立てて行くように見学することを言います。

剣道を知る その176・・・「摺りあげ技」と「返し技」について・・・
「摺り上げ技」と「返し技」の違いは、「摺り上げ技」は相手の竹刀に対して摺りあげた側を打ち、「返し技」は応じた反対側を打つところにあります。「摺り上げ技」は、打突してきた相手の竹刀を自分の竹刀の右側または左側で摺り上げげ、相手の打突を無効にすると同時に打ち込む技で、「返し技」は、打ち込んでくる相手の竹刀を摺り上げるように応じ、ただちに手首を返して反対側の部位を打つ技をいいます。

剣道を知る その177・・・「一眼 二足 三胆 四力」について・・・
剣道を修行する過程において、重要な事柄を述べた古人の教えである。第一に相手を見る目、第二に足さばき、第三に胆力、すなわち何事にも動じない強い気持ちや決断力、第四に力、すなわち技を発揮する身体能力が重要であるという教えである。
(一眼)相手と対峙したときは、まず相手の思考や動作を見破る眼力(洞察力)が最も大切である。宮本武蔵は「観見二様の目付け」として「観の目強く、見の目弱く」と教えている。
(二足)初心者ほど手先で打って足が伴わないものである。道歌に「立合いは竹刀で打つな手で打つな、胴造りして足で打て」と教えているが、すべての打突は足がその根本であり、足の出ない剣道は居付技として卑しまれている。
(三胆)胆は胆力である。四戒と云われる驚懼疑惑の四病を払拭して、一刀両断する勇気と決断が大切である。
(四力)力は思い切った技、およびその技を発揮する体力や筋力などの身体能力である。

剣道を知る その178・・・「勘」について・・・
勘とは、相手の虚や実を頭でよく考えて判断するのではなく、無意識的に頭にひらめいて動作になることをいいます。勘は、稽古に稽古を重ね、はいじめて身につけることができます。

剣道を知る その179・・・「観見の目付」について・・・
観とは心で見、見は目で見ることをいうものです。観は大きく見ることで、見は部分的に小さくみることです。つまり、大観を旨とし、心眼に重きをおけとの教えです。要するに、部分的に見ず、全体を見よ。肉眼で見ず、心眼で見よとの教えです。

剣道を知る その180・・・「四戒」について・・・
四戒とは、驚・懼・疑・惑の四つを言い、剣道修業中に、この中の一つでも心中に起こしてはならないと買う戒めである。
(驚とは)予期しない相手の動作に驚くときは、一時心身が混乱し、正当な判断と適切な処置を失い、甚だしきは呆然自失することもある。
(懼とは)恐怖の念が一度起きると、精神活動が停滞し、甚だしきは手足がふるえて、その働きを失うものである。
(疑とは)疑心あるときは、相手を見て見定めがなく、自分の心に決断がつかず、敏速な判断、動作ができない。
(惑とは)惑う時は精神が混乱して、敏速な判断、軽快な動作ができない。
従って剣道の勝負は技だけでなく、心の動きに支配される事が多いもので、相手に隙が生じても、この四戒の一つが心に起きれば、隙を見る事ができぬうえ、自ら萎縮し隙を出し、相手から打たれるものである。故に、常に四戒を脱して、思慮の深い活発な精神を養うよう修練すべきである。

剣道を知る その180・・・不動心について・・・
「不動心」とは、どんな場合にのぞんでも泰然自若として、心を動かすことのない状態をいいます。「平常心」といわれるのも同じ事です。人は、普段と異なる時、必ず心に変化が生じるものです。たとえば、人の前などに突然出ていくと、緊張して顔色が変わったり、思うことの半分も言えなかったりするなど、誰にでも経験があると思います。これが平常心を失うということです。剣道においても、試合などとなると、特に平常心を失うものです。常に心の気力を養い、物事に心を動かさないように工夫し修練しておかなければなりません。

剣道を知る その181・・・平常心について・・・
「平常心」とは、平常の心、即ち人間本来の心の状態をいうのである。人は事に臨んで心が動ずるもので、平素の心でこれに処することは、困難なことである。剣道は対人動作で自己の働きだけのものでなく、相手の動きによって自己の動きが決定されるのであるから、技術的には極めて複雑なものである。剣道では平常の心を保つことができるよう、平素の鍛錬等を通じて心がけることが肝要である。

剣道を知る その182・・・有効打突について・・・
有効打突は、剣道試合・審判規則第12条に、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものと規定されている。このような諸条件を満たした一本が有効打突となる。言いかえれば、気剣体一致の打突である。有効な打突は理合と残心からなっており、理合を要素と要件に分けると、要素には、間合・機会・体さばき・手のうちの作用・強さと冴えが含まれる。要件には、姿勢・気勢(発声)・打突部位・竹刀の打突部・刃筋が含まれる。残心は、打突後の身構え・気構えである。

剣道を知る その183・・・剣道の歴史①・・・
剣道の歴史を遡るとき、欠くことのできない基本的な段階がいくつかある。その源は日本刀の出現である。彎刀で鎬(しのぎ)造りの刀は日本独特で、平安時代 (7941185)の中頃に出現した。その原形は日本列島東北地方に住み騎馬戦を得意としていた部族が平安初期には既に使っていたと思われる。以来、武 士集団に使われ、日本最初の武士政権,鎌倉幕府末期に製作技術は飛躍的に進歩した。「鎬をけずる」といわれる剣の技は、日本刀とともに日本に生まれたもの であると言っても過言ではない。

剣道を知る その184・・・剣道の歴史②・・・
室町幕府(13921573)の後半、応仁の乱が始まってから約 100年間、天下は乱れた。この頃に剣術の各流派が相次いで成立している。1543年種子島に鉄砲が伝来した。日本には河床に沈積した品質の良い砂鉄があり、たたらふき法で製鉄し、刀を鍛造していたが、短期間に同じ方法で質のよい鉄砲を大量に生産することに成功した。それによりそれまでの重装備の戦闘方式 は軽装備の白兵戦へと大きく変化した。そうした実践体験を踏まえて刀を作る技術の高度化・専門化が進み、洗練された刀法が確立され、新陰流や一刀流などの 諸流派に統合されて後世まで継承されている。

剣道を知る その185・・・剣道の歴史③・・・
江戸幕府(16031867)の開府以後、平和な時代が訪れるに従い、剣術は人を殺す技術から武士としての人間形成を目指す「活人剣(かつにんけん)」へと昇華し、技術論のみでなく生き方に関する心法まで拡がった。幕府
初期には柳生宗矩の「兵法家伝書」、第三代将軍家光のために「剣と禅」を宗矩にたのまれて沢庵が解説した「不動智神妙録」、宮本武蔵の「五輪の書」などは、そうした思想を集大成した兵法書である。中期・後期にも各流派の理論が出され、夫々は今日でも多くの剣道家に示唆を与える名著になっている。これらの書が武士に問いかけたことは、如何にして死を超越して生に至る
かという問題であり、それはそのまま武士の日常生活の教育でもあった。武士は、これらの指導書、また教養書を学び、日常生活は厳格で質素であり、才能を磨 き、武術に励み、善悪を知り、一旦緩急があれば藩のために国のために命を捧げることを知っていた。通常の仕事は現代でいうと官僚であり軍人であった。ここ
で生まれた武士道の精神は264年に及ぶ平和の中で養われ、封建制度の幕府が崩壊しても日本人の心として現代に生きている。他方、太平の世が続き、剣術は実践的な刀法から華麗な技がつくられていく中で、新たな基軸をうちだしたのが直心影流の長沼四郎左衛門国郷である。長沼は正徳年間(17111715)に剣道具(防具)を開発し、竹刀で打突し合う「打込み稽古法」を確立した。これが今日の剣道の直接的な源(みなもと)である。その後、宝暦年間(17511764)に一刀流の中西忠蔵子武が鉄
面をつけ、竹具足式の剣道具(防具)を用いて打込み稽古法を採用すると、またたく間に多くの流派に波及した。寛政年間(17891801)ころには、流派の壁を越えて他流試合も盛んになり、強い相手を求めて武者修行をする者も相次いだ。こうして江戸幕府後期には、「袋しない」よりも腰の強い「四つ割り竹
刀」が発明され、胴もなめし革をはり漆で固めたものが開発された。俗に「江戸の三大道場」といわれる千葉周作の玄武館、斎藤弥九郎の練兵館、桃井春蔵の士 学館などが勇名を馳せるのもちょうどこの頃である。千葉はまた、竹刀打ち剣術の技の体系化をはかり、打突部位別に技を体系化した「剣術六十八手」を確立し
た。千葉が命名した「追込面」や「摺揚面」など、多くの技名は今日でもそのまま使われている。

剣道を知る その186・・・剣道の歴史④・・・
明治維新(1868)になり、新政府が設置されて武士階級は廃止され、続いて帯刀が禁止されたことにより失業者は激増し、剣術は下火になった。その後、明治10年西南の役を契機に警視庁を中心に復活の兆しが見えは じめた。明治28(1895)には、剣術をはじめとする武術の振興を図る全国組織として大日本武徳会が設立された。ほぼ同じころの1899年に武士の思
想の集大成とも言うべき『武士道』という書が英文で出版され、世界に影響を与えた。

剣道を知る その187・・・剣道の歴史⑤・・・
大正元年(1912)には剣道と言う言葉が使われた「大日本帝国剣道形 (のち「日本剣道形」となる)」が制定された。流派を統合することにより日本刀による技と心を後世に継承すると共に、竹刀打ち剣道の普及による手の内の乱れや、刃筋を無視した打突を正した。竹刀はあくまでも日本刀の替りであるという考え方が生まれ、大正8年、西久保弘道は「武」本来の目的に適合した武道および剣道に名称を統一した。

剣道を知る その188・・・剣道の歴史⑥・・・
第2次大戦敗戦後、連合国軍の占領下におかれた日本で、剣道は抑圧され ていたが、昭和27(1952)独立回復後、全日本剣道連盟が結成されるとともに甦った。今日では、学校体育の重要な一部分を構成するとともに老若男女
を問わず、庶民の間に拡がり、数百万人に及ぶ幅広い年齢層の愛好家が竹刀を持ち、ともに稽古に励んでいる。また、世界各地で剣道を愛好する外国人も増え、昭和45(1970) には国際剣道連盟(IKF)が結成され、第1回世界剣道選手権大会が日本武道館において開催された。平成24(2012)5月にはイタリアのノヴァラに おいて第15回世界剣道選手権大会が開催され、48カ国・地域から選手が集まった。

剣道を知る その189・・・剣道の歴史⑦・・・
江戸時代
江戸時代中期の正徳年間(1711
1715
)に直心影流長沼国郷面・小手を製作し、竹刀打ち込み稽古法を確立した。宝暦年間(1751
1763
)に中西派一刀流中西子武が防具を鉄面・具足式に改良した。防具の発達にともない袋竹刀より強固な四つ割り竹刀が作られるようになった。江戸時代後期から末期には、竹刀打ち中心の道場が興隆し、流派を超えて試合が行われた。幕末の江戸三大道場といわれる鏡新明智流士学館北辰一刀流玄武館神道無念流練兵館や、幕府の設立した講武所が有名である。北辰一刀流の創始者千葉周作は剣術の技を六十八手に分類し、講武所頭取並の男谷信友は竹刀の全長を38と定めた。当時の竹刀試合はあくまで真剣を使った戦いに勝つための訓練の手段として行なわれ、競技を目的にはしていなかった。審判規則や競技大会はなく、10勝負が通例とされていた[2]

剣道を知る その190・・・剣道の歴史⑧・・・
明治・大正時代
明治維新によって武士の身分が廃止され、廃刀令により帯刀も禁じられ、剣術家は失業した。これらの困窮した剣術家を救済するため、心影流榊原鍵吉明治6年(1873)、撃剣興行という剣術見世物を催した。撃剣興行は物珍しさから満員御礼となり、これに刺激された2代目斎藤弥九郎(斎藤新太郎)や、千葉東一郎、千葉之胤、島村勇雄、渡辺楽之助など他の剣術家も争って撃剣興行を催した。その数は東京府内で37か所に上り、名古屋久留米大阪など全国各地に広まった。しかし、この人気は庶民の一時的な好奇心にすぎず、やがて人気は下火になっていった。撃剣興行によって剣術の命脈は保たれたが、客寄せのための派手な動作や異様な掛声などが後の剣道に悪影響を及ぼした[3]という意見もある。

剣道を知る その191・・・
警視庁剣術・・・
明治10年(1877)、士族反乱西南戦争に従軍した警視庁抜刀隊が活躍し、剣術の価値が見直された。大警視川路利良は『撃剣再興論』を著し、警察で剣術を奨励する意向を明らかにした。明治12年(1879)、巡査教習所に道場が設けられ、上田馬之助梶川義正逸見宗助撃剣世話掛として最初に採用された。その後も真貝忠篤下江秀太郎得能関四郎三橋鑑一郎坂部大作柴田衛守などが採用された。撃剣興行や地方の剣術家も続々と就職し、明治16年(1883)には、一道場の師範として通用する警察官の数が二百数十名に達した。警視庁は警視流木太刀形撃剣級位を定め、弥生神社で全国的規模の撃剣大会を開くなどして、明治前期の剣術の最大の拠点となった。地方の警察もこれに倣って剣術を奨励し、一般社会の剣術の復興を促した。

剣道を知る その192・・・大日本武徳会・・・
明治28年(1895)、平安遷都1100年記念や日清戦争の勝利によって日本武術奨励の気運が高まり、大日本武徳会が結成された。総裁小松宮彰仁親王皇族陸軍大将)、会長に渡辺千秋京都府知事)、副会長に壬生基修平安神宮宮司)が就任した。同年に第1回の武徳祭大演武会(現在の全日本剣道演武大会)が開かれ、優秀な剣術家に精錬証が授与された。大日本武徳会は、流派を超越した統合組織として毎年の大演武会の開催、各府県支部の設立、武徳殿の造営、武術教員養成所(後の武道専門学校)の設立、段位称号範士教士錬士)の授与、試合審判規則の制定など、現在まで続く剣道の制度を確立し、太平洋戦争敗戦まで剣道の総本山の役割を果たした。

剣道を知る その193・・・
学校剣道・・・
学校教育に剣道を採用する議論はすでに明治16年(1883)から行われていたが、指導が難しく有害であるとして見送られていた[注釈
1]
。剣道家の衆議院議員星野仙蔵小沢愛次郎らの請願運動により、明治40年(1907)に衆議院で可決され、明治44年(1911)に剣道が中等学校正科の体操の一部として実施されるようになった。剣道教員の養成機関となったのが、武道専門学校(武専)と東京高等師範学校(高師)である。武専教授内藤高治と高師教授高野佐三郎は 当時の剣道界に大きな影響力を持ち、「西の内藤、東の高野」といわれた。従来の個人教授法では多人数の生徒を教えることはできないため、高野佐三郎は集団 に一斉に教えるための団体教授法(号令に合わせて集団で動く練習方法)を考案した。また、大日本武徳会は全国から25名の剣道家を選抜し、中等学校剣道教 育のための大日本帝国剣道形(現在の日本剣道形)を制定した。

剣道を知る その194・・・
剣道という名称・・・
「剣道」という語は江戸時代明治時代にも使用例はある[注釈
2]
が、多くは「剣術」、「撃剣」とよばれていた。「剣道」の名称が法規上正式に使用されたのは明治44年(1911)に剣道が中等学校正科の一部として採用されたときで[4]、明治末から大正にかけて「剣道」という名称が定着した。大正8年(1919)、大日本武徳会副会長に就任した西久保弘道は「武術」から「武道」への名称変更を主唱し[5]、大日本武徳会においても剣術は剣道と呼ばれるようになった。なお、当時は古流剣術と近代剣道の違いはあまり意識されておらず、流派名を名乗る剣道家も多かった。

剣道を知る その195・・・
剣道の競技化・・・
従来の剣道大会は個人ごとの試合のみで、順位を競うものではなかったが、大正13年(1924)から開催された明治神宮体育大会昭和初期の天覧試合では、リーグ戦トーナメント方式優勝者が決められた。これは当時としては画期的な試みであり、剣道が競技(選手権大会)として確立するきっかけとなった。しかし、これに反対した剣道家もおり、明治神宮体育大会は大日本武徳会が当初不参加を表明、昭和天覧試合は内藤高治が強硬に反対したが、国家的行事であったことからやむなく従っている[注釈
3]


剣道を知る その196・・・戦時中の剣道・・・
第二次世界大戦開戦により、日本は戦時体制に入った。太平洋戦争中の昭和17年(1942)、政府は大日本武徳会を厚生省文部省陸軍省海軍省内務省の共管とする外郭団体に改組し、国民の戦意高揚と戦技訓練のための機関とした。戦時中の剣道は、戦場での白兵戦を想定して行われ、競技としての剣道とは一線を画したものとなった[6]打突を「斬突」という表現で呼称し、攻撃的な先の技を重視して、軽い打ちや片手技は認めないものとされた。試合は一本勝負が奨励された。

剣道を知る その197・・・剣道禁止と撓競技の誕生・・・
昭和20年(1945)、日本が敗戦し、連合国軍(GHQに占領された。連合国軍は、大日本武徳会が国家と結びついて戦争遂行に加担したとして、大日本武徳会を解散させ、関係者1300余名を公職追放した。剣道の組織的活動は禁止され、明治維新についで二度目の危機を迎えた。昭和25年(1950)、全日本剣道競技連盟が結成されたが、剣道という名称が問題視され、全日本撓競技連盟と改称。武道的性格を払拭した「撓競技」というスポーツが生み出され、フェンシングのようにシャツズボン運動靴、軽量の防具を着用して、袋撓で打ち合いポイントを競った。審判員も洋服姿でを持つようになった。撓競技は順調に発展し、昭和27年(1952)に中学校以上の学校体育に採用され、さらに同年国民体育大会にオープン競技として参加した。同じころ、警察では「警棒術」(警棒操法)と称する竹刀の短い剣道のような練習が考案されている。

剣道を知る その198・・・
剣道の復興・・・
昭和27年(1952)、サンフランシスコ講和条約発効にともない連合国軍の占領が解かれると、同年に全日本剣道連盟が結成され、剣道の復興が始まった[注釈
4]
。剣道と撓競技はしばらくの間、共存していたが、昭和29年(1954)に全日本剣道連盟と全日本撓競技連盟が合併し、撓競技は廃止された。ただし一部のルールは剣道に引き継がれた。全日本剣道連盟は、戦後の剣道を民主スポーツとして実施する方針を示した[注釈
5]
が、純粋なスポーツにはなりきれず[注釈
6]
、「剣道は武道かスポーツか」という論争は現在に至るまで剣道界が抱えるジレンマとなっている[注釈
7]


剣道を知る その199・・・
警察剣道・・・
明治時代からの歴史的経緯により、現在も剣道は柔道と並び警察官必須の術科(武道)とされている。各警察署には道場が設けられ、署員が稽古に使用しているほか、道場を開放して少年剣道教室を開いている。警察官の中でも特に選抜された術科特別訓練員(特練員)は主に機動隊に所属し、豊富な稽古量を保っている。全日本剣道選手権大会世界剣道選手権大会日本代表の大多数は特練員の警察官で占められている。

剣道を知る その200・・・学校剣道・・・
昭和28年(1958)の中学学習指導要領で、剣道、柔道相撲が正科体育とされ、今日に至っている。平成24年(20124月から中学校の第1、第2学年の体育で男女共に武道が必修になった(中学校武道必修化)。授業のほかに部活動があり、日本全国の中学校高等学校大学等で剣道が稽古されている。一方で、宗教上の理由により剣道の履修を拒否して最高裁判所まで争われた事例がある(神戸高専剣道実技拒否事件)。

剣道を知る その200・・・実業団剣道・・・
民間企業実業団による剣道部活動も行われているが、職務として剣道を稽古している警察官、教員刑務官に比べると勢力は弱い。柔道オリンピック競技となり民間企業が大々的に参入しているのとは対照的である。

剣道を知る その201・・・女性剣道・・・
女性の剣道は、戦後の男女共学や女性の社会進出にともない1960年代から70年代に始まったもので、男性の剣道に比べ歴史は浅い。かつて女性の武道は、なぎなたとされていた。第4代全日本剣道連盟会長の庄子宗光は、「女性が剣道界に進出し、女性の間に剣道愛好者が目立って増加したことは、戦後の剣道界の著しい特徴の一つである。このことは男女同権時代当然のことと言えばそれまでであるが、明治、大正の時代はもちろんのこと、昭和の戦前時代には想像もできなかった現象である」と述べている[10]。ただし男女は体力差があり危険なため、試合は男女別に実施される。
当初の女性剣道人口は極めて少なかったが、現在では女性有段者は全有段者の4分の1を占め、平成9年(1997)には全日本女子剣道選手権大会皇后盃が下賜された。

剣道を知る その202・・・国際化・・・
戦前には、日本人が移民したアメリカブラジルや、日本が統治した朝鮮台湾等で剣道が稽古されていたが、国際的なものではなかった。昭和45年(1970)、剣道の国際競技団体として国際剣道連盟が発足し、同年に第1世界剣道選手権大会が開催された。以来3年に1度開催されている。第1回の参加国は17国であったが、近年は40国前後まで増えている。ただし多くの国では剣道具や指導者が行き渡っておらず、世界剣道選手権大会も国により実力の格差が大きい。
剣道の国際化にともない、剣道をオリンピック種目にしようという意見が唱えられるようになった。これに対し全日本剣道連盟は、剣道がオリンピック種目になれば勝利至上主義や商業主義に陥り、剣道の持つ武道的特性が失われるとして、現在まで反対の立場をとっている。また、剣道は有効打突の判定基準が曖昧で、国際競技の場では特に審判が難しい問題もある。
近年問題となっているのが、韓国コムド関係者による剣道の起源剽窃問題(韓国起源説)である。「剣道の起源は日本ではなく韓国である」との、歴史を捏造した主張がインターネット等で繰り返され、全日本剣道連盟は公式ウェブサイトにおいて、剣道の起源は日本であるとの声明を発表し[11]、遺憾の意を示している。2001に韓国で結成された世界剣道連盟は、役員にテコンドー関係者が多く、剣道(コムド)をテコンドーにならいオリンピック種目にすることを目指している[12][13]。このような状況から、近年の日本では剣道のオリンピック参入の是非とコムド問題が合わせて論じられることもある。国際剣道連盟が国際オリンピック委員会IOC)傘下のGAISF(現ポーツアコード)に加盟したのは、世界剣道連盟がGAISFに加盟する手続きを取ったため、国際剣道連盟が本当の剣道の国際競技団体であることを公式に認めてもらうために加盟したともいわれている。

剣道を知る その203・・・統括組織・・・
現在、日本には2団体、世界には1団体ある。
日本
全日本剣道連盟
日本最大の剣道団体。日本の剣道界のほぼ全体を統括している。日本武道協議会日本体育協会日本オリンピック委員会JOC)、国際剣道連盟FIK)に加盟している。
日本剣道協会
神道無念流
系剣道団体。「真の剣道復活」を唱えて設立された。竹刀による打突だけではなく、体当たり足払い、組討ち等も認めている。
世界
国際剣道連盟
International Kendo Federation, FIK
全日本剣道連盟の国際競技団体として1970(昭和45年)に設立。以来、3年ごとに世界剣道選手権大会を開催している。20037月時点で44ヶ国の剣道団体が加盟している。国際オリンピック委員会IOC)公認団体スポーツアコード(旧称GAISF)に加盟。IOC承認国際競技団体になることを目指している。

剣道を知る その204・・・剣道の理念・・・
全日本剣道連盟は、昭和50年(1975320日に『剣道の理念』、『剣道修錬の心構え』を制定した。制定委員長は松本敏夫、委員は堀口清小川忠太郎玉利嘉章中野八十二湯野正憲大島功井上正孝小川政之広光秀国笠原利章
剣道の理念
「剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である」
剣道修錬の心構え
「剣道を正しく真剣に学び
心身を錬磨して旺盛なる気力を養い
剣道の特性を通じて礼節をとうとび
信義を重んじ誠を尽して
常に自己の修養に努め
以って国家社会を愛して
広く人類の平和繁栄に
寄与せんとするものである」

剣道を知る その205・・・服装・用具・・・
剣道着
の上から、垂・胴・面・小手の防具(剣道具)を装着する。面を着用する際には、頭に手拭い(面手拭い、面タオル)を巻き付ける。垂には通常、名前や所属する道場名などの記されたゼッケン(垂ネーム)を付ける。基本的に裸足であるが、怪我等の理由で足袋サポーターを着用する者もいる。足袋・サポーターは試合のときも許可を得れば使用可能であることが一般的である。また、試合時には識別用として背中(胴紐の交差部)に紅白それぞれの目印(たすき)を付ける(全長70cm、幅5cm)。近年では垂にチョークなどで目印をつける大会もある。

剣道を知る その206・・・稽古内容・・・
稽古
とは「古(いにしえ)を稽(かんが)える」という意味である。剣道の稽古は竹刀稽古形稽古に大別される。稽古を行う施設を「道場」という。近年では体育館で行う場合もある。冬季・夏季に行う稽古を寒稽古暑中稽古という。
竹刀稽古
竹刀打ち込み稽古
竹刀
防具を使用する稽古。
素振り
木刀で行う場合もある)
切り返し
打ち込み稽古
打突
追込み稽古
掛かり稽古
互角稽古
(地稽古)
試合
稽古
立ち切り
形稽古
日本剣道形
の稽古
木刀
模擬刀、刃引で行なう形の稽古。
日本剣道形
木刀による剣道基本技稽古法
道場によっては直心影流法定一刀流各派神道無念流など古流の形も稽古している。警視庁警視流木太刀形筑波大学東京高師五行之形小西酒造修武館奥之形など、明治時代に制定された比較的現代剣道に近い古流形も存在する。また、全日本剣道連盟は、剣道人が日本刀の操法を学ぶための全日本剣道連盟居合を推奨している。
形稽古と竹刀稽古は「車の両輪」と喩えられ、いずれも体得が必須とされているが、形稽古は軽視されている。

剣道を知る その207・・・安全性・・・
竹刀を当てる部分が防具を装着しているという理由で、他の武術と違って比較的安全な武道である。2003年~2007年度の5年間における高校剣道部での死亡事例は4人。10万人あたり1.406/年という発生率となっている[14]
2009
(平成21)年822日、大分県立竹田高等学校剣道部での練習中、同部男子部員(17歳)が熱射病による意識混濁後に錯乱と痙攣起こし、搬送先病院にて多臓器不全で死亡。死亡した部員の両親は学校や病院が適切な対応を怠った結果、死亡に繋がったとして提訴。大分地方裁判所は学校や病院の過失を認め、大分県などに合わせて4600万円余りの賠償を命じた[15]
[16]

専用施設ではなく空調設備も無い学校の部室や稽古場等では、夏場になると室温が高くなり練習量の多寡とは関係無く熱射病が発生しやすくなる。屋内競 技における熱中症の発生頻度が最も高いのが同競技であり、死亡に至る前に医療機関を受診している例は年間数百件と推定されている[17]

剣道を知る その208・・・試合形式・・・
以下は全日本剣道連盟の場合である。
試合
は常に11で戦う。これは団体戦の場合も同じである。選手は試合場に入り二歩進んでお互いにをし、三歩進んで蹲踞したあと審判員の「始め」の声がかかってから立ち上がり、勝敗が決するか規定の試合時間が経つまでお互いに技を出し合う。原則として三勝負であるが、一本勝負も認められている。
試合場
張りのに境界を含め19mないし11m正方形または長方形試合場を作り、試合をする。境界は普通、白のラインテープを貼って分ける。また、試合開始時の立ち位置は試合場中心付近に白のラインテープで示される。
試合時間
試合時間は小学生2中学生3分、高校生以上4分、延長戦の場合には3分が基準である。しかし、運営上の理由などからこれ以外の試合時間を採用することも認められており、公式大会の決勝戦では、2007(平成19年)から試合時間が10分に変更された。

全ての技は、竹刀防具の決められた箇所を打突するものである。

 

技一覧表

 

 

 

技の詳細

 

技名

 

特記事項

 

小手を打つ技

 

小手打ち
引き小手打ち
出小手

 

 

 

面を打つ技

 

面打ち
引き面打ち
小手面打ち

 

 

 

面の当てを突く技

 

突き

 

中学生は原則禁止。高校生以上でも、この技を禁止とする大会もある。

 

胴の当てを突く技

 

胸突き

 

以前は相手が上段の構えを取っている時のみ一本になった。
後、相手が
二刀流の場合のみ認められていた。

 

胴の右側を打つ技

 

胴打ち
引き胴打ち
抜き胴

 

 

 

胴の左側を打つ技

 

逆胴打ち

 

 



これに、技を出す直前までの流れから「相(あい)〜」「抜き〜」「返し〜」「払い〜」「すり上げ〜」「引き〜」などの接頭辞が付く場合もある。

剣道を知る その209・・・有効打突・・・
有効打突(一本)とは、
充実した気勢、適正な
姿勢をもって、竹刀の打突部(弦の反対側の物打ちを中心とした部)で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるもの
である。審判員はこれに該当しているかどうかを判断してを挙げる。
反則
を一試合中に2回犯した場合は、相手に一本を与える。
相手に足を掛けまたは払う。
相手を不当に場外に出す。
試合中に場外に出る。
自己の竹刀を落とす。
不当な中止要請をする。
相手に手をかけまたは抱え込む。
手の竹刀を握るまたは自分の竹刀の刃部を握る。
相手の竹刀を抱える。
相手の肩に故意に竹刀をかける。
倒れたとき、相手の攻撃に対応することなく、うつ伏せなどになる。
故意に時間の空費をする。
不当な
鍔(つば)迫り合いおよび打突をする。

剣道を知る その210・・・審判員・・・
3
名の審判員1名の主審2名の副審からなる)が紅白を持ち、旗を挙げることで有効打突の意思表示とする。2名以上が有効打突の表示をした場合、もしくは1名の審判員が有効打突を表示し2名が判定の棄権を表示した場合、一本となる。また、主審は次のいずれかの場合、「止め」の宣告と同時に紅白両方の旗を平行に挙げ、試合を中断させることができる。
反則の事実
負傷や事故
危険防止
竹刀操作不能の状態
異議の申し立て
合議
試合者から中断の要請があった場合(この場合、主審は要請の理由を質し、不当な要請の場合は審判の合議の上、反則となることもある)
なお、試合中断は副審から申し出ることもできる。その際に副審が「止め」の宣告後、直ちに主審が「止め」の宣告をして試合を中断する。
鍔(つば)迫り合いがこうちゃく(膠着)した場合、主審は 「分かれ」の宣告と同時に両旗を前方に出し、両者を分け、その場で「始め」の宣告と同時に両旗を下ろし、試合を継続する。「分かれ」の場合の試合時間は中断しない。
勝敗
勝敗は、試合時間のうちに三本勝負の場合二本、一本勝負の場合一本先取した選手を勝ちとする。また三本勝負において一方が一本を取り、そのままで試合時間が終了した場合にはその選手を勝ちとする。試合時間内に勝敗が決しない場合には、
延長戦を行い先に一本取った選手を勝ちとする。延長の代わりに判定あるいは抽選によって勝敗を決する場合、または引き分けとする場合もある。判定および抽選の場合には勝者に一本が与えられる。団体戦における代表戦も原則一本勝負である。

剣道を知る その211・・・二刀流・・・
成年者は原則として二刀流は禁止されていないが、使用者の数は少ない。昭和初期に学生の間で試合に勝つためだけに、団体戦において二刀流の選手を防御一辺倒の引き分け要員とする手段が横行したため、一部の学生大会では二刀を禁止するようになった。太平洋戦争後、剣道が全日本剣道連盟の下に復活した際も、学生剣道界では戦前に倣って二刀を禁止したために、二刀を学ぶ者が非常に少なくなってしまった。
ただし、伝統が断絶するのを危惧する声もあり、
1992(平成3年)に大学剣道(公式試合・昇段審査)では解禁された。しかし、高体連中体連の公式試合・昇段審査においては未だに禁止されており、また小学生・中学生は申し合わせ事項で片手技は有効としないとされているため、高校生以下では事実上禁止されている状況である。
二刀流の竹刀は
大刀小刀を用いる。それぞれ長さと重さが決められており、男性の場合、大刀は37以下(一刀の場合は39寸以下)、小刀は2尺以下となっている。長らく二刀流が否定されていたため、また上記の通り竹刀も短く、かつては二刀流の相手に対しては胸突きも認められていたというハンデキャップがあるため、指導者・使用者とも少ないのが現状である。

剣道を知る その212・・・異種試合・・・
異種試合とは、異なる武道との試合のことである。高野佐三郎1920大正9年)に著した『日本剣道教』(P119-P120)には銃剣鎖鎌との戦い方が解説されている。昭和天覧試合では銃剣術との試合が行われた。現在は全日本剣道演武大会など特別な大会で、なぎなたとの試合がエキシビション的に行われる程度である。
主な大会
全日本剣道選手権大会(女子の部は全日本女子剣道選手権大会)
世界剣道選手権大会
全国警察剣道選手権大会
全国警察剣道大会
全国教職員剣道大会
全日本選抜剣道八段優勝大会(旧 明治村剣道大会)
全日本都道府県対抗剣道優勝大会
全日本東西対抗剣道大会
全日本剣道演武大会(京都大会)
国民体育大会剣道競技(国体)
全国家庭婦人剣道大会
全日本高齢者武道大会
全国健康福祉祭(ねんりんピック)
全国青年大会
全日本学生剣道選手権大会
全国高等学校総合体育大会剣道競技大会(インターハイ)
玉竜旗全国高等学校剣道大会
全国中学校剣道大会
全日本少年少女武道(剣道)錬成大会

剣道を知る その213・・・段級位制・称号・・・
詳細は「剣道の段級位制」を参照
^ 「実習の際に多少の危険がある」、「ややもすれば粗暴の気風を養う」、「道具を要し、かつ清潔に保つことが容易ではない」、「各人に監督を要し、一斉に授けがたい」、「武技と体操は似て非なるものである」などの理由による。
^ 寛文7年(1667)の安倍立伝書に「剣術は日用の術なので剣道という号にする」という記述、弘化5年(1848)の大石神影流門人渡部直八の『諸国剣道芳名録』、明治時代の一刀正伝無刀流開祖山岡鉄舟の書物に「剣道」という表現がある。
^ 内藤高治は「これで日本剣道は滅びた」と嘆じた。
^ なお、柔道は昭和23年(1948)に解禁されている。
^ 当時の全日本剣道連盟兼全日本撓競技連盟の幹部(庄子宗光中野八十二大島功渡辺敏雄)の座談会において中野八十二は、「今度、剣道連盟が、剣道はスポーツとして行くんだと宣言されたことは、非常に意味があると思う。剣道というものは、御承知のように武士階級の盛んな封建時代に 育ったもので、それがだんだんと発展してきて民主的になったといっても、まだそのような気分の抜けきれぬところが多くある。『俺は剣道をやっているのだ、
俺はほかの者よりいいものをやっているのだ』という貴族的な、あるいは武士的な気持が多分に残っていたと思うのです。ところが御承知のようにスポーツとい うものは、本当をいえば
民主主義に 根ざしたものですから、相手を征服するとか何とかいうことでなしに、本当に相手と共に楽しみながら、剣道を通してお互を磨いていくということが、本当の姿
と思うのです。私はスポーツというものはそういうものだと思う。そうした点を剣道連盟がはっきりと明確に打ち出されたということは、結局、剣道というもの をある特権階級的雰囲気から大衆的雰囲気にしたともいい得るので、一大躍進と称しても過言でないと思います。」と述べている
[7]
^ 全日本剣道連盟第2代会長の石田和外は、昭和52年(1977) に『通産ジャーナル』誌上で、「剣道はいまスポーツとして評価されているし、スポーツであることは間違いないことです。スポーツとしても立派に成り立つと
思いますが、やはり剣の道ということになると、昔の人の心構えということになりますね。(中略)剣道をスポーツだと考える人からいうと、少しややこしくな りますが、剣道はつきつめていくと、魂のこもった
日本刀で、場合によっては、命のやりとりもしなければいけないんだという、一つの奥があるんです。」と述べている[8]
^ 現在の全日本剣道連盟は、「剣道は剣道具を着用し竹刀を用いて一対一で打突しあう運動競技種目とみられますが、稽古を続けることによって心身を鍛錬し人間形成を目指す『武道』です。」と表明している[9]